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過去が未来を教えてくれる【コラムリレー第17回】

温故知新

 

故(ふる)きを温(たず)ねて、新しきを知る

 

論語に出てくる孔子の言葉で、「昔の物事を究めて新しい知識や見解を得ること」の意味である(広辞苑より)。私の大好きな言葉の1つだ。

 

学芸員の重要な仕事の1つに、資料の収集とその保存がある。この場合の保存とは、単に資料を棚に入れて整理することだけを意味しない。その資料の“価値”も一緒に保存するのだ。そのためには、高度な専門的知識を必要とするため、学芸員には各々培ってきた専門分野がある。そして、自分の専門分野を活かして、資料が何者であるのかを調べ記録として残し、場合によっては学会誌などで論文として公表する。

 

このように「学芸員」とひとくくりにしても、その中には多様な「専門分野」が存在するのだ。さらに、そこに「時間」という尺度も存在する。同じような分野でも、現在を含む最近の“過去”から、私のように1億年前の遠い“過去”の事象を扱っている者まで様々だ。

 

地質時代と北海道史 地球は、46億年という長大な時間スケールをもっているため、似たような専門分野でも対象としている時代は様々である。

地質時代と北海道史年表。地球は46億年という長大な時間スケールをもつ。上側の時間軸は対数表記されている。下側の等間隔の時間スケールで見ると、地球の長い歴史からすれば人類の歴史はごく最近にすぎない。にもかかわらず、過去最大の生物の絶滅事件が起こっているのは現在であると揶揄されるように、人類が地球に及ぼす影響は決して小さくはない。

 

それだけこの世界に起こっている出来事は多様だという証なのだろう。しかし、そこに「学芸員」という職業の難しさが存在すると思う。博物館は市民のご厚意から資料を寄贈して頂けることが多いが、いかんせん多種多様な資料が持ち込まれるため、その資料の価値判断が非常に難しい。学芸員が一人しかいない館では尚更だ。また、収蔵できる空間は限られているので、全ての資料を保存することができないのもまた現実である。その時、私たちは資料を保存すべきか否かの判断を下さなければならない。言い換えるならば、学芸員は資料の価値を保存する仕事をするからこそ、“資料を捨てる(保存しない)”という大きな権限をもっていると言える。

 

ここで考えなければならない事がある。“捨てる”という最終判断は簡単に下すことができるのか。否、特に私のように狭い範囲の知識しか持ち合わせていない未熟者は、そんな判断を簡単に下せる訳がない。

 

では、どうすれば良いのだろうか。私は、学芸員同士が強力なスクラムを組んで、1つの大きな“知能”として機能することが重要ではないかと考えている(正直、これは私のずぼらな性格も関係しているが)。そうすれば、例え自分の所で保存することができなくても、他所でしっかり保存してくれる可能性が高まるからだ。

 

そもそもなぜ、私たちは資料を保存するのか。それは単に“過去”を記録するためだけではない。これまでの学芸員たちの書いたコラムリレーをもう一度読み返してほしい。実に様々な話題が提供されているが、どの話題も未来へ向けたメッセージだ。

 

 

温故知新

 

学芸員は“過去”を保存している。現在を含む限りなく今に近い“過去”から、人類の存在しない遠い“過去”まで。しかし、その“過去”を知ることが、きっと私達の進むべき“未来”へのヒントを教えてくれる。

 

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「北海道で残したいモノ、伝えたいモノ」

 

それは

 

北海道の学芸員たち

 

こんな事を言うと、自分たちの職業確保を主張しているかのように取られるので言い換えよう。正確には、学芸員たちが行っているような、「“過去”を保存し、その“過去”を知ることの大切さ」を知ってほしい。

 

一方で、私たち学芸員はもっと多くの方々へ自分たちの行っている活動を知ってもらい、理解してもらい、そして活用してもらう努力も必要だ。そのためには、やはり私たち学芸員同士がつながり、互いにもつ知識と技術を交換して“学芸員力”を高め、1つの力となって発信することが重要だと思う。きっとそれが“未来”へつながるものだと私は勝手に信じている。

 

 

集まれ!北海道の学芸員

 

excursion01

「集まれ!北海道の学芸員」のトップページで使用されている画像。撮影者は、沙流川歴史館の森岡健治氏。余談ではあるが、なぜか撮影者本人がセルフタイマーを使用していないのにもかかわらず集合写真に写っている。ここできちんと記載しておかなければ、数年後には何も違和感なく「撮影者不詳」となってしまう危険があるのでここにとどめておく。しかし、このような合成写真を簡単に作ることができる事も大事な学芸員の技術力の1つだ。

 

そう思いをこめて、私はこのホームページのタイトルをつけさせていただいた。

 

<三笠市立博物館 栗原憲一>

 

 

 あとがき

 

現在、週1回のペースで投稿されている「コラムリレー」は、「北海道で残したいモノ、伝えたいモノ」をテーマに学芸員たちが日々行っている活動や研究内容等を紹介しています。このコラムリレーを通して、学芸員たちの日々の活動を垣間見せることができればうれしく思います。そこで今一度、過去に投稿されたコラムと執筆した学芸員たちを紹介します。

 

第1回「ゼニガタアザラシとの付き合い方」 えりも町郷土資料館 中岡利泰さん

第2回「湿地の文化的価値」 根室市歴史と自然の資料館 猪熊樹人さん

第3回「地域に眠る標本を掘りおこす」 帯広百年記念館 持田 誠さん

第4回「厚沢部川とシシ踊り」 厚沢部町教育委員会 石井淳平さん

第5回「ニホンザリガニが大変だー!! 外来生物の拡散による影響」 ざりがに探偵団主宰・フリーランスキュレーター 旭川大学地域研究所特別研究員 斎藤和範さん

第6回「奥尻の日々」 奥尻町教育委員会 稲垣森太さん

第7回「「北海道」とアイヌ語地名」 沙流川歴史館 森岡健治さん

第8回「計画中止となった幻の線路「戸井線」」 小樽市総合博物館 佐藤卓司さん

第9回「内地の人と様似町の交流」 アポイ岳ジオパークビジターセンター 加藤聡美さん

第10回「北海道の移住文化からみる葬送儀礼の構築」 三笠市立博物館 高橋史弥さん

第11回「まちの記憶と文化を刻む古い建物たち」 富良野市博物館 澤田 健さん

第12回「林のプール」 いしかり砂丘の風資料館 志賀健司さん

第13回「写真を読み解く」 帯広百年記念館 内田祐一さん

第14回「新冠と災害」 新冠町郷土資料館 新川剛生さん

第15回「手作りの魚道」 美幌博物館 町田善康さん

第16回「町の遺跡を遺したい!」 湧別町ふるさと館・郷土館 林 勇介さん

 

ここに記して投稿いただいた学芸員たちに謝意を申し上げます。

 

3月から始まったこのコラムリレーも早4ヶ月が経ちました。今後も細く長く続けていきたいと思っていますので、皆様、どうぞよろしくお願い致します。

 

次回は余市町水産博物館の小川康和さんの投稿です。お楽しみに!