写真は時代を伝える客観的で具体的な資料であり、博物館にとっては歴史を知るための重要なツールのひとつとなっています。帯広百年記念館ではこのような写真の収集に力を入れており、現在、数万点の写真資料を収蔵しています。また、古い写真のみならず、「今の帯広・十勝」を残すために、毎年その年の帯広や十勝の風景や風俗などを写した写真の公募もおこなっています。
昨年は帯広中心街の商店や帯広駅などの協力を得て、お店のショーウィンドウや駅のコンコース、それに歩行者天国などで明治、大正、昭和の街並み写真を展示する「街なか写真展」を開催しました。とても好評だったため、再開催の要望がお店や市民の方々からちらほら来ています。
さて、古い写真をよく観察すると思わぬ発見があったり、被写体から写真の撮影時期がわかったりします。今回のコラムリレーでは、そんな写真のおもしろさを知っていただこうと思います。
まずは帯広の中心街を撮影した写真1と2です。撮影場所は、現在、道東唯一のデパートである藤丸デパートから駅方向(西2条通)を撮影したものです。撮影時期は昭和初期としかわかっていませんでした。
この2枚の写真は一見連続写真に見えますが、よく見ると・・・お店の看板が違います。写真1には中央附近に「山下ふとん店」、道路を挟んで右側に「至誠堂」という看板が見えますが、2にはありません。昭和10年の地図をみると、山下ふとん店は「江口食堂」というお店で、至誠堂はすでにその場所にあるのがわかります。
また、調べたところ昭和6年の地図では江口食堂となっていました。加えて、この両方の写真の道路は舗装されていますが、この西2条通が舗装されたのは昭和7年です。これらのことから1は2より新しく、昭和10年以降の写真であることがわかります。また、2は昭和7年以降、昭和10年以前のものとなります。
ちなみに左から2軒目の白い建物は「千秋庵」で、皆さんご存じの現在の六花亭さんです。
続いて写真3は帯広の西2条9丁目から西2条通の北方向を写した写真です。さて、いつの時代の写真でしょうか?
中央のビルが当時の藤丸デパートで、昭和5年12月にオープンしました。道路は未舗装です。しかもよくみると右側の屋根上に吹き流し、それに左端には国旗の掲揚がみられます。
これらから推測するに、おそらく5月5日の撮影ではないでしょうか。また、昭和6年秋までには江口食堂の手前隣に「銀座小売市場」が建てられますが、ここには写っていません。これらのことを考えると、この写真は昭和5年(この年であれば藤丸はオープン前)か6年の5月5日撮影かな?ということになります。
さて、中央左に2名の学生がいますが、学生服や背格好から帯広中学(現在の帯広柏陽高校)の学生と思われます。
乗っている自転車ですが、手元にブレーキレバーがないように見えます。これはおそらくコースターブレーキタイプの自転車でしょう。このタイプの自転車は、ペダルを逆回転させることでブレーキがかかるようになっているので、手元にレバーが付いていません。その右側には人力車も見えます。また、写真2とは街路灯が変わっています。この街路灯の変更時期についてはまだわかっていませんが、個人的には道路舗装の際の昭和7年に更新したのではないかと考えています。
最後に写真4です。
藤丸デパート、江口食堂、舗装道路、それにこの写真の大きさではわかりませんが、実は中央左のホシ薬局のとなりに「至誠堂」の名前がちょっとだけ見えます。でも屋根に看板は見えません。これらのことから、この写真は写真2と同じ昭和7〜10年のころで、しかも至誠堂の看板がない分、写真2よりは少しだけ前のころのものと考えられます。
さてこの写真を細かくみると・・・
【a】店中にドーム状のものがいくつも下がっていますが、これは・・・?
どうも「蚊帳」のようです。このように開けたまま売ってたんですね(これって閉じないのでしょうか?)。こんなに場所を取っては、売るのも買うのも大変でしょうね。
【b】当時の子供たちが3人写っています。
左の男の子は赤ん坊を背負っていて、真ん中は女の子、そして右の子は小さな自転車に乗っています。当時はこんな小さな子供も子守りをしていたことがわかります。
【c】江口食堂の看板ですが、この写真では「サッポロビール」となっています。
ところが、この時代よりも古い時代の写真3—1(昭和5〜6年)をみてください。この時代は「キリンビール」です。当時のサッポロビールの営業の方ががんばった結果、キリンからサッポロに扱いが変わったのでしょうか。それともキリンが撤退したのか。まあ、どっちにしても頑張りましたね。サッポロビール!
このように写真からいろいろなことがわかります。皆さんも古い写真を調べて当時の暮らしに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
ちなみに写真を調べるには、ルーペなどで見るよりも高解像度でスキャンしてパソコンの画面で見ることをお勧めします。
<帯広百年記念館 内田 祐一>
次回は、新冠町郷土資料館の新川剛生さんの投稿です。ご期待ください!