【コラムリレー08「博物館~資料のウラ側」第36回】
博物館の展示資料とともにある小さな解説板「キャプション」。
歴史資料であればその由来や年代を、美術品であれば作品名や作者、製作年などが書かれており、展示資料を深く知るための大切な役割を担っています。
一方で、参加体験型の展示が多い科学館では、そのキャプションに含まれる情報も、少し特殊な多様さを持っています。そこには、展示物と来館者を能動的につなげるための工夫が隠されています。
分解して見えてくる、体験のヒント
一つの科学館展示を例にとってみたいと思います。
これは大阪市立科学館にある「ボールマシン」という展示物です。

カラフルなレールが目を引き、鐘などのアイテムに当たる音が楽しい展示物です。
スタートボタンを押すとボールが打ち出され、落ちていく様子を、アクリル越しに全方位から観察できます。
では、この展示物に設置されたキャプションを読んでみましょう。
「ボールの動きを目で追いかけよう!」
この展示物は、目で見て楽しむ展示物であることがわかります。科学館には押す、引っ張る、のぞいてみる、ジャンプする…など様々な体験方法があるので、これは「見る」中心の展示物だというガイドです。
「ジョージ・ローズ(1926~2021)という米国の作家の芸術作品です。」
この展示物は、芸術作品であるという資料の背景がわかります。
「ジェットコースターのように、ボールがレールに沿って次々と転がり落ちていきます。
宙返り、急降下、ジャンプなどなど、いろいろな楽しい運動を見ることができます。」
この展示物で何が体験できるのか、来館者は何を見ればいいのかがわかります。
「ボールは位置エネルギーと運動エネルギーを交換しています。」
この展示物が表している科学現象について書かれてあり、理科で習う内容と目の前の動きを結び付ける役割も果たしています。
「ボールのおもしろい動きを探してみてね」
「ぶつかる・はねる・まわる」と注目してほしい点を絞ることで、なんとなくボールの動きを見るのではなく、「見る」から「探す」へと展示の楽しみ方を変化させるヒントが書かれています。
帰った後も展示体験は続いている?
右側には「身近な現象」などの情報が紹介されています。一見補足のように見えますが、実は来館者の体験を展示室の中だけで終わらせないための重要な仕掛けです。
例えばこの一文があることで、遊園地に行った際に「あ、科学館のボールと同じ動きだ!」と思い出したり、家族や友人と話したりするきっかけになります。展示室での体験を日常へと持ち帰ってもらうような「会話の種」を、キャプションの中に密かに仕込んでいるのです。
学芸員とあなたを橋渡しするキャプション
このようによく見てみると様々な情報が散りばめられているキャプション。
そこには学芸員が伝えたいメッセージを限られたスペースの中で端的に表現する工夫が詰め込まれています。
このコラムリレーでもキャプションについて取り上げられている回がありますので、ぜひあわせて読んでみてください。館種や学芸員、展示を通して伝えたいことによって内容が様々に変わるのがキャプションの面白いところです。
次にミュージアムを訪れた際は、ぜひキャプションにも注目してみてください。資料そのものが語ることはもちろん、その資料を「どう楽しんでほしいか」という学芸員の意図を読み解くことで、博物館体験はもっと豊かになるはずです。
〈株式会社サイバコ/北海道大学教育学院博士後期課程 森沙耶〉
集まれ!北海道の学芸員 ようこそ北海道の博物館へ
