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ゼニガタアザラシとの付き合い方【コラムリレー第1回】

 

襟裳岬のゼニガタアザラシ

襟裳岬のゼニガタアザラシ

「トッカリも、カラスも、キツネも一緒。みんなその辺にいる動物。別に珍しい動物でもない。」

「おれたちの世代は、トッカリに育てられた。」

「肉は食ったし、脂は煮出して使った。」

「トッカリも生きていくために魚くうべ。」

「トッカリ鍋もうまいぞ、血抜きして、みそ味でな~。」

「中学校の頃、学校帰りに道歩いていると磯にトッカリがいた。なんとか捕まえて、皮を売ったお金で辞書買って勉強した。」

(注:以上、話し手の言葉どおりではない)

 

1970年代始め、襟裳岬。アザラシを利用する。(大泰司紀之氏撮影)

1970年代始め、襟裳岬。アザラシを利用する。(大泰司紀之氏撮影)

えりもにはこんな経験をしてきた人々がいる。30年以上前から聞き貯めてきた話。その当時から、サケ定置網では、ゼニガタアザラシによるサケへの食害があり、漁業者は困っていた。襟裳岬に定住するアザラシはゼニガタアザラシ、地元漁師はトッカリと呼ぶ。ゼニガタもゴマフアザラシもトッカリで通じる。

1980年代初め、襟裳岬に生息するゼニガタアザラシは約150頭にも満たず、北海道全体でも350頭ほどしか確認されていなかった。

現在、襟裳岬には500~600頭が生息し、北海道全体では900頭以上が確認されている。この30年間で生息数は増加したが、上陸する岩礁帯(地域)の数は、調査が進んでも、わずか8か所しかない。

ゼニガタはゴマフよりも、岩礁に頼って暮らしている。主に食べる魚は、カジカ、カレイ、ギンポなど岩の間や底に暮らしている魚、そして、タコが大好きだ。

襟裳岬周辺や厚岸地域では、生息数が増加し、漁業との軋轢が生じている。特に、近年漁獲数が減っている秋サケ定置網における食害が問題になっている。また、商品価値が高い春のトキシラズにも食害が出ている。漁業者もサケが豊漁であれば不満があるにしろ我慢できるのであるが、サケ来遊数の減少とゼニガタの増加が重複し、被害が著しく目立ってきた。

2011年、ゼニガタに食害されたサケについて、スタディーツアーの参加者に説明する漁業者。

2011年、ゼニガタに食害されたサケについて、スタディーツアーの参加者に説明する漁業者。

そのため、環境省は漁業被害を低減させるために調査に取り組んでいる。その調査によって、今まで知られていなかったゼニガタの生態も分かってきている(詳細については別の機会に紹介したい)。生態を知ることで漁業被害に役立てようということ。しかし、漁業者は悠長に待ってはいられない。ゼニガタによる食害だけが定置網経営の悪化原因ではないだろうが、経営の負担になっているのが現状だ。

漁業とゼニガタアザラシの関係、すなわち、人間と野生動物の関係。エゾシカが増え、農林業への被害は以前から着目され、対策も実施されているが、なかなかエゾシカは減らない。自然環境への影響も深刻とされているが、被害算出がままならない。金銭だけでは測りきれない問題。私たちの暮らしが自然環境によって保たれているという認識は残念ながら低く、環境保全へのシフトは高まらない。アザラシも生態系の一員、高次捕食者としての役割はあるに違いないが、具体的には解明されていない。ゼニガタの場合は沿岸生態系や沿岸資源への影響、関連性を多面的に評価していく時代になっている。

かつて、トッカリを地域に暮らすものとの意識を共有していた時代があった。肉を食い、脂を使い、皮を使った時代があった。時代は移り変わり、皮などを利用目的で捕獲する必要がなくなった今、ヒトとアザラシのつきあい方は、「観光利用」と「被害意識」が高まったといえるだろう。

暮らし(衣食住)にゼニガタが必要なくなった今、冒頭に紹介した漁業者の言葉に共感できる感性を持った次世代の人を育んでいく必要があるのではないだろうか。

ゼニガタアザラシは、環境省によって希少種(絶滅危惧種Ⅱ類)に指定され保護されている(2013年3月現在)。ゼニガタの生息数が減少すれば、食害も減るであろうが、ゼニガタが生息する限り、被害がゼロになることはない。ゼニガタVS漁業という視点だけでは、問題は解決されないだろう。漁業への問題についても地域全体で共有化し課題解決を探る、ゼニガタは地域特有の財産であるからこそ、ゼニガタの活かし方についても地域で考えていく時代になってきている。

調査機材を装着したゼニガタアザラシのパップ(幼獣)

調査機材を装着したゼニガタアザラシのパップ(幼獣)

ゼニガタとの付き合い方は変わってしまったが、冒頭紹介したゼニガタを身近な生き物としてあつかう自然観・価値観を大切にし、地域に残し、育てていきたい。

 

<えりも町郷土資料館 中岡利泰>

来週は、根室市歴史と自然の資料館の猪熊さんの投稿です。ご期待ください!