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計画中止となった幻の鉄路「戸井線」 【コラムリレー第8回】

北海道内には鉄道敷設を進めたが事情により建設中止となり未完成に終わった路線がいくつかあります。今回はその中の一つ、道南地区に計画された「戸井線」を紹介します。

 

「戸井線」は軍事輸送を目的として、函館を起点に五稜郭から分岐して戸井に至る32.6㎞の計画路線でした。路盤やトンネルなどの土木工事は、戸井まで残り3.4㎞地点の瀬田来(せたらい)まで完了しましたが、太平洋戦争の形勢悪化にともない工事は中断されました。

ほかに戦時下、影響を受けた営業路線は
・ 「札沼線」 石狩月形~石狩沼田間
・ 「富内線」 沼ノ端~豊城間
・ 「興浜北線」 浜頓別~北見枝幸間
・ 「興浜南線」 興部~雄武間
以上が営業休止、

・ 「手宮線」 手宮~南小樽間

単線化、

各路線の鉄材などを回収し施設の撤去転用が行われました。

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戸井線敷設の歴史は1922(大正11)年4月、全国の鉄道網完成を進めるために公布された改正「鉄道敷設法」から始まります。この法律では国の地勢、産業の開発、国防その他の観点から必要とする路線149線が選定されます。その中には「渡島国函館ヨリ釜谷ニ至ル鉄道」として戸井線も予定線にあがります。その後、津軽要塞の設置で汐首崎第一・第二砲台が建設され軍の重要地域となり、1936(昭和11)年5月には鉄道敷設法の中改正で「釜谷」から「戸井」まで延長されます。

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1937(昭和12)年、北海道建設事務所の所管で五稜郭側から工事着手、1942(昭和17)年に瀬田来まで路盤工事は完成し、湯の川まではレールも敷設されましたが、資材不足により中止。 1944(昭和19)年「鉄道敷設法」戦時特例が公布、この特例では戦力増強など緊急に鉄道が必要な場合は敷設が認められましたが、実際に行われたものはなく、戸井線の工事も再開することはありませんでした。

 

戦後、青函トンネルのルート検討で戸井線一部を通る東回り「大間~汐首」案、西回り「竜飛~白神」案の二つが検討されました。水深や地質の問題もあり、現在の西回りルートが採用され戸井線にレールが敷かれることはありませんでした。 そして1971(昭和46)年9月、国鉄は鉄道用地(函館市296,554㎡、亀田町53,992㎡、戸井町185,750㎡)を8567万6000円で売却、トンネル2ヶ所(455m)橋梁51ヶ所(548.5m)などの残った設備を無償譲渡しました。

  ※亀田町は1971(昭和46)年市制施行、1973(昭和48)年函館市に編入合併
 ※戸井町は2004(平成16)年函館市に編入合併

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2012(平成24)年8月に、戸井地区瀬田来に残るコンクリートアーチ橋「蓬内橋(よもぎないばし)」が老朽化のため同年12月に解体撤去という報道がありました。戸井地区に残る鉄橋では唯一市道として使われていたもので、産業遺産としての保存を望む声もありました。沿線住民の中には、過去に戸井線跡のコンクリート路盤の鉄砲水による災害を受けたり、また崩落を防ぐための維持管理費の公費の負担などもあり橋の架け替えに安心する人もいるようです。 解体工事は翌年2月から行われ現在も工事中ですが、戸井線遺構の一つは姿を消しました。

 

解体前の「蓬内橋」の状況(2012年10月撮影)

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コンクリート構造物の修復・保存は、国内にある産業遺産の現状をみると容易ではないことがわかります。文化財としての修復理念が未熟なため、現場の判断に任せた修復が行われるなど、まだ調査研究段階という現状です。経済的・技術的な問題も含めコンクリートの素材を文化財として修復・保存していくには多くの課題がある中、まして「厄介モノ」とまで言われた戸井線跡に残る構築物を、地域の人々に遺産として認めてもらうには時間がかかるでしょう。

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蓬内橋解体工事の状況 写真提供:函館市土木部道路建設課

 

実物を遺構として保存し後世に伝えていくことが理想ですが、まずは住民の安全が第一です。やむ無く残すことができず解体されたとしてもそこにあった歴史や史実が語り継がれていけばそれは「財産」になると思います。そしてその「財産」を守っていく手助けをするのが学芸員の仕事のひとつであるということを多くの人に理解していただければと思います。

〈小樽市総合博物館 佐藤卓司〉

 

次回は、「様似町アポイ岳ジオパークビジターセンター」の加藤聡美さんの投稿です。
町民との関わりについてのお話をしてくれます、みなさんお楽しみに!

また、今年の学芸職員部会総会・研修会は様似町での開催です。どうぞよろしくお願いします。