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ホネなお仕事3つのおトク【コラムリレー07 第10回】

 学芸員って、展示を作ったり解説してる人でしょ? いや、それももちろんやるんですが…。展示は学芸員のお仕事の、ほんの一部にすぎないのです。

 博物館には「三大機能」というものがあります。収集保管、調査研究、教育普及(←展示はここ)です。これらが博物館の職員である学芸員のお仕事。
 多くの人の目にふれるのは展示ですが、それを支える土台は、資料や標本の収集保管。土器や古文書、生物や岩石などを集めて整理すること。これ抜きに展示はあり得ません。また、現在の人だけでなく、何十年、何百年先の未来の人が活用できるように残していくことも重要な使命。5年10年で結果の出ない、地道で、骨の折れる仕事なのです。

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 博物館に展示されているもので、みなさんが最初に思い浮かぶのは何ですか? 骨格標本かもしれませんね。恐竜化石だったり、鳥や哺乳類の骨格だったり。大きな動物の骨格は迫力もあり、どこの博物館でも来館者に人気です。

 そんな骨格標本、実は博物館側にとっても保管や研究などの面で多くの優れた点がある資料です。骨の“おトク”ポイントを3つ、挙げてみましょう。
 まず、形が変わらないこと。液浸標本(ホルマリン漬など)や剥製といった肉や皮を残す標本は、処理によって縮んだり曲がってしまうことがありますが、硬い骨はそんな心配はありません。
 次に、保管にあまり気を使わないですむこと。古文書や植物の押葉標本などと比べたら、多少暑かったり寒かったりしても問題ナシ。そもそも生物の体を支える“骨組み”だけに、とても丈夫なのです。
 もう1つは、現在の生物と大昔の化石とを比較する研究材料になること。数千万年、数億年前の動物が化石となって残るのは骨の部分だけ。肉や皮はまず化石にならないので、外形や色は復元できません。でも現在の動物の骨と比べていくことで、色や外見、暮らしぶりを推測したり、進化の道筋を解明する手掛かりとなります。
 これらが骨格標本“3つのおトク”なのです。

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 そうは言ったものの、骨格標本を作るのって、けっこう大変なんです。何しろ材料は“死体”。
 僕の場合は海の動物の漂着死体を扱うことが多いので、車が入れないような海岸から死体を担いで何kmも運んで筋肉痛や腰痛に。運べないような大きさのときは、現地で切り分けたり最低限の解体作業をすることも。皮をはいで肉を削ぎ、中から出てきた骨は脂でギトギト。魚や鳥、小動物ならまだいいのですが、クジラ・イルカのような大型動物だったら、文字どおり血みどろの作業です。甘い脂の臭いは体に染み付き、次の日も消えません。これはしんどい。

死亡漂着したネズミイルカ。回収作業のために波打際から引きずり揚げる。
小さいイルカとはいえ、約60kg。成人男性相当。

 そこで思いつきました。キツい作業は、生物や骨が好きな人たちにやってもらおう。
 そうして10年ほど前に始まった活動が、骨格標本製作ボランティア、略して「ホネボラ」。呼びかけてみると、好きな人がいるものです。大学で生物を専攻した人から、漫画家、小学生など、個性的な人が集まりました。活動は不定期ですが、ときどきイルカやアザラシの漂着があると、集まって運んだり、除肉処理、組立をしてもらってます。

ホネボラによる作業。死亡漂着したゴマフアザラシを現場で除肉。
(画像は一部加工してあります。)

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 こんなホネボラの活動によって、博物館に、これまた3つの“おトク”が生まれました。
 1つめは、館の骨格標本が少しずつ増えていること。「収集保管」機能の一端を支えてくれているのです。
 次に、ホネボラたちの知識や技術がレベルアップしていくこと。これはまさに「教育普及」活動です。最初は小学生だったメンバーは、今、大学で海洋生物を学んでいます。
 そして最後、一番おトクなのは、血の苦手な学芸員がラクをできること。これ大事。自然史の学芸員がみんな、死体や解剖がヘッチャラ、というわけではないんですよ。

<いしかり砂丘の風資料館 学芸員 志賀健司>