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標本をつくる【コラムリレー07 第31回】

 みなさんは標本を作ったことはありますか?子どもの時、夏休みの自由研究として昆虫などの標本を作った方もいるのではと思います。私が勤める苫小牧市美術博物館の収蔵庫には昆虫、植物、化石、鉱物、骨、はく製など自然に関係するあらゆる分野の標本が4万点以上収められています。標本は「生き物がその時、その場所にすんでいた証拠になり、多くの標本を調べることによって自然環境の変化を知ることができる」、「展示や観察会などで使用することで、生き物の形態が持つ役割や美しさを伝えることができる」など大切な役割があるため、当館でも積極的に収集しています。収集の方法には寄贈によるものと、学芸員自ら採集して作るなどがありますが、今回は当館で取り組んでいる標本づくりのお仕事をご紹介します。

①昆虫の標本づくり

昨年採集したチョウを展翅したところ

 苫小牧市は生物の境界線と言われる石狩低地帯(いしかりていちたい:石狩地方から苫小牧につながる地域)の南部に位置します。この石狩低地帯は昆虫の分布の境界とされ、寒帯と温帯の両方の種がみられるなど重要な特徴を持つ地域です。私の専門は昆虫ではないのですが(専門は鳥類)、市内外の専門家にアドバイスをいただきながら、この地域のチョウやトンボ、甲虫などを中心に調査を行っており、採集した昆虫の標本を作っています。

 チョウは羽根を広げて、トンボはお腹の内臓を取って、どちらも展翅板(てんしばん)という台に羽根を広げて乾燥させます。小さな甲虫は脱脂綿の上で足の形を整えた状態で乾燥させ、厚紙を三角形に切った台紙に貼りつけて保存します。最後にどの標本にも、いつ、どこで、誰が採ったのかといった情報を小さな紙に記載した「ラベル」をつけて保存しています。昆虫の標本づくりは細かい作業も多く時間もかかるため、私一人で作ることのできる標本の数は毎年50点ほどです。

②樹脂封入標本づくり

何度かの失敗を経て完成した樹脂封入標本の第一号

 樹脂封入標本はポリエステルなどの樹脂に生き物を封入して作る標本です。壊れやすい標本でも半永久的に保存でき、展示はもとより手に取って観察できるというメリットがあります。当館には樹脂封入標本が少ないこと、また運よく市内の高校に樹脂封入標本づくりを指導できる先生が赴任されてきたことから、ご協力をいただいて樹脂封入標本づくりを今年度から始めました。

 樹脂封入標本の作り方はホームページや本で様々な方法が紹介されていますが、今後の継続性や経済面を考え、ホームセンターで揃えることのできる材料で可能な限りクオリティの高い方法を目指しました。今後を考えてオリジナルの作成マニュアルを作ったり、実践と普及の機会として一般の方を対象にした「樹脂封入標本づくり」のイベントも昨秋に開催しました。まだ手のひらサイズの小さな樹脂封入標本しかできませんが、いずれは大きなものや生物の生活環(せいかつかん:生物の成長にともなう変化のサイクル)を表現したものなど、テーマを設定した樹脂封入標本にも取り組みたいと考えています。

 これら標本づくりの一番の課題はマンパワーです。学芸員だけの力では到底たくさんの標本を作ることはできません。今後はボランティアの導入など市民協働の体制づくりも視野に入れながら、少しずつでも標本の充実を目指していきたいと考えています。

苫小牧市美術博物館 学芸員 江崎逸郎