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モノを受け継ぎ活かす【コラムリレー07 第29回】

 博物館や資料館が存在する前提として資料が必要です。資料は寄贈を受けたり、購入したり、発掘・採取したりあるいは製作するなどして収集します。私の勤務する根室市歴史と自然の資料館では、資料の収集方法として、市民からの寄贈を受けるケースが多く、学芸員の仕事の中でも資料の収集にかかる業務は重要といえますが、それらをどのように活かしていくか、最近の仕事の状況を紹介したいと思います。

資料の収集
 近年、受け入れた資料で質、量ともに優れていた事例は、2017年に、根室市内で戦前から考古学を研究されていた方から、約80年間に渡り発掘等で収集してきた考古資料の寄贈を受けたことでした。その数は12万点を超えるもので、根室市内の遺跡のほか、現在では発掘調査が難しい北千島や北方領土で戦前に発掘された資料も含まれていました。
 資料は60cm×40cm×深さ16cmのプラスチックコンテナに入っており、それが約1,200箱ありました。保管されていた状況を復元できるよう、1箱ずつ番号をふり、中身をデジタルカメラで記録しました。資料館に運んだ後は箱の中身を1点1点確認し、資料を分類していき資料台帳を作成していきました。こうした資料台帳の作成は、資料のまとまりを保持する上でも大切な作業になります。一連の作業は元大学教授の先生らとともに4人体制で行いましたが、さしあたり必要な台帳を作るのに1年半ほどかかりました。

寄贈された考古資料の収蔵状況の一部

資料の活用
 博物館等において資料の活用というと資料の展示を指すことが多いかと思います。資料整理や調査研究を経て、展示等に活用するのが通常の流れですが、今回受け入れた大量の考古資料は、貴重なものが多く話題にもなっていましたので、当初から展示や出版物の発行を行っていき、調査や整理を行いつつ、展示等活用も行っている状況です。私が勤務する資料館は、展示スペースやバックヤードがとても狭い上、展示ケース等の設備も整っていない状況でしたので、保管スペースの確保や活用ができる環境を整備することから始めないといけませんでした。地方自治体の財政状況は厳しく、何らかの補助金等を確保し整備していくしかなく、こうした「金策」にかかる部分にも一定の労力を割かざるを得ませんでしたが、幸い市の財政担当も理解してくれ、金融機関の応援も頂き、活用にかかる整備を進めることができています。

自治体の学芸員としての仕事
 博物館学芸員として資料の収集、調査研究、活用の仕事が重要なのはいうまでもありませんが、その先にある観光やシティプロモーションなど地域振興につなげる仕事も求められています。令和2年6月に標津町を代表自治体に根室管内の自治体が「日本遺産」に共同申請し認定を受けました。日本遺産は、地域に点在する文化遺産をストーリーとしてパッケージ化し、文化庁が認定する制度で観光等の活用に重きをおいたものです。根室管内の学芸員が連携して、史跡や博物館資料を用い地域振興に資する事業を行っていくというもので、さきに紹介した考古資料も日本遺産の構成文化財の一つに位置付けており、より多面的な活用方策を模索しているところです。
 北海道内の学芸員のほとんどは、専門分野をもちながらも、様々な分野の調査研究や活用に携わっています。いわば地域資源のスペシャリストでありジェネラリストであるわけですが、地域が衰退する中、場合によっては職域を超え蓄積した情報を地域振興へつなげていく仕事というのが、より重要になっていくのではないかと考えています。

2019年9月標津町タブ山チャシ跡での観光ガイドの交流会に参加。
観光関係団体との協働も多くなってきました。

根室市歴史と自然の資料館 学芸員 猪熊樹人