博物館で学芸員って何やっているの〜?そもそも学芸員て何〜?って思ってる人も多いのでは?
イコム(ICOM=国際博物館会議)やユネスコ(UNESCO=国際連合教育科学文化機関)は、「博物館・美術館等を含む館園は、文化・学術的価値の高い標本資料を収集し、保管し、研究して、展示や学習・教育に活用することを任務とする。各地域における知的・文化的中枢であり、その博物館が果たすべき任務のうち、最も重要な部分を分担し遂行する役割を担うのが学芸員である。」とあります。
学芸員は博物館には無くてはならない資料収集・保管、調査研究など、高い専門性を持っています。資料には、歴史的芸術的学術的価値の極めて高い貴重なものが多く、時には新種発表の論文に使った世界に1つしかない原記載標本、重要文化財や国宝を扱うこともあります。その取り扱いには専門知識が必要でその分野のプロフェッショナルが学芸員なのです。
しかし最近は、学芸員は標本資料を扱い調査・研究する、その分野のプロという側面だけではなく、社会教育の中で様々な仕事が求められています。学芸員の仕事に、学校連携・地域連携・生涯教育があることは、他のコラムで書かれているので、ここでは少し違う話をしましょう。
それは高齢者教育。福祉との連携です。えっ福祉?と思った人も多いのでは?
「公立博物館の設置および運営上の望ましい基準」の見直しで、時代の変化に伴って生じた新たな役割への対応として、「博物館は、その実施する事業への青少年、高齢者、障害者、乳幼児の保護者、外国人等の参加を促進するよう努めるものとする。」の規定が追加されました。
現在、高齢者問題はきわめて深刻な社会問題です。博物館には民俗資料が多く収蔵されています。おはじきやお手玉、竹とんぼや水鉄砲・ぬりえなどの玩具、昔の写真や映像、よく聴いた音楽や歌、好きな絵本、使い込んだ生活用品や昔の農機具など、懐かしい物が満載です。これらの「思い出ツール」を使い、お年寄りたちの記憶を呼び覚ます「地域回想法」という方法があります。お年寄りたちが働きざかりだった時代の「思い出ツール」を、見たり聞いたり触ったりすることで五感が刺激され、昔のことを思い出しやすくなり記憶が蘇えるのです。
昔の民俗資料が沢山収蔵されている博物館は、「昔のことはよく覚えている」というお年寄りの特性を活かすには地域回想法はうってつけです。
どんなことがお年寄りたちにもたらされるのか?
過去の出来事を思い出すことが自分の人生を見つめ直すきっかけになります。 思い出したことを「人に話す」という行為が脳に大きな刺激を与え、認知症の症状の緩和や進行の抑制に効果的です。「自分の話をちゃんと聞いてもらえている」と感じることで満足感や自己肯定感を持つ事ができます。「懐かしい話を共有できる仲間がいる」と感じることは、不安感や孤独感を和らげます。過去のことを思い出すうちに懐かしさや楽しさなどが蘇り、穏やかな気持ちになり表情も自然と明るくなり、日々の生活への意欲が増し、アイデンティティや自信を取り戻します。
お年寄りに良いだけでなく学芸員にも良いことが満載です。学芸員の多くはその土地出身ではない場合が多く、お年寄りたちが持つ経験はありません。お年寄りの話は、学芸員の知識となり道具の使い方を実演してくれる先生でもあるのです。元気になったお年寄りが民具や農具などを手にし、地域の子どもたちに生き生きと語り、子どもたちが知恵袋の高齢者を尊敬のまなざしで見つめる光景が、地域に広がることこそが、豊かな暮らしに繋がると思うのです。その役割をも学芸員が担っているのです。
北海道教育大学旭川校・フルーランスキュレーター 斎藤和範
次は根室市歴史と自然の資料館の猪熊樹人のコラムです。どんな話が飛び出すか?乞うご期待。