グーグルマップは昨年、地面に対して垂直の視線で地表を見た地図、いわゆる平面図にくわえ、斜め45度の視線で見た地図、いわゆる鳥瞰図(あるいは俯瞰図)の配信をはじめた。「地図」によって私たちは、世界の中の自分の位置を知的に把握することができる。しかし同じ地図でも、平面図に比べ鳥瞰図は、建物の高さや奥行きをより直感的に把握させてくれる。知的にかつ感覚的に世界を把握したい。グーグルマップは、私たちのそんな異なる二つの欲望に応えている。
吉田初三郎(1884-1955)は、その欲望にもっとも美しく応えた人物の一人だろう。グーグルマップが、世界のどの部分をも均質な「画像」に置き換えるのに対し、初三郎は描きたい「景」を選び出し、それを組み合わせて、一つの空間をつくりだす。
「北海道鳥瞰図屏風」では、札幌、旭川、函館、帯広などの各都市や、大沼、支笏洞爺、大雪、阿寒などの自然公園の「景」が、ぱっと目に飛び込んでくる。「景」の集合体が、北海道そのものであるとさえ言える。平面図ではこうはいかない。都市や自然公園は、とるに足らない部分を占めるにすぎないからである。そのために、海原に浮かぶ北海道は、平面図に比して大きく歪んでいる。
山々には緑色系統、湖や川には水色系統、街以外の平地には肌色系統の色が割り当てられている。さらに、張り巡らされた赤い線は国鉄の鉄道路線、濃い橙は私鉄や専用鉄道、薄い橙は道路線、海上にひかれた白い線は、青森函館間と稚内大泊間の航路だ。ここでは、色によって、ある種の記号化がはかられている。他方で、天人峡や層雲峡の青緑に輝く岩肌の凹凸は、一つ一つが違う表情を見せるように、克明に描かれている。大胆に抽象化された部分と、執拗に差異を描く部分とが混在する空間が、170cm×500cmの画面に展開する。
この図は昭和11年、陸軍特別大演習のために北海道を訪れた昭和天皇に供するために製作された。これを原画にした印刷折本も刊行され、人々は刊行図を片手に鉄道旅行の車窓風景に思いを巡らせた。実際に旅行に携帯した人もいただろう。
大正の中頃から昭和20年代にかけて、初三郎は全国各地と朝鮮や台湾で、1600枚を超える鳥瞰図を描いたと言われる。初三郎が鳥瞰図絵師として躍進するきっかけになったのは、大正4年に手掛けた初めての鳥瞰図、「京阪電車御案内」が、近畿地方に修学旅行中の皇太子(のちの昭和天皇)の目にとまり、絶賛されたことだった。「これは綺麗で解り易い」。まさに初三郎の「景」が、絵であり、同時に地図であることの謂であろう。
20世紀前半、21世紀の現在、ともに一世を風靡した初三郎の鳥瞰図とグーグルマップには、そんな共通点があった。今年の3月4日、グーグルのトップページのロゴが、初三郎の鳥瞰図風にアレンジされたことは、そんな考えに信憑性を与える出来ことであった。
〈北海道開拓記念館 学芸員 春木晶子〉