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博物館に現れるゴキブリ【コラムリレー第31回】

小樽市総合博物館館内で採集されたヤマトゴキブリ

小樽市総合博物館館内で採集されたヤマトゴキブリ

ゴキブリは北海道では馴染みの薄い生物ですが、最近はいたるところで見られるようになっています。北海道にゴキブリがすみついたのは青函トンネルの建設の影響だという「説」をよく耳にしますが、ずっと前の1940年代頃には既にチャバネゴキブリ(小型で黄褐色)が都市部で見つかっていたようです。

北海道ではこれまでに9種のゴキブリが確認されていますが、偶産や一時的な発生を除くと、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ(大型で茶褐色)、ヤマトゴキブリ(クロゴキブリに似る)の3種が定着していると考えられています。

当館の昆虫標本のコレクションの中には、北海道で採集されたゴキブリの標本が多数ありますが、実はその多くが博物館の館内で採集されたものです。手宮地区にある本館でも、小樽運河の前にある分館(運河館)でもゴキブリが時々姿を現します。

当館に現れるゴキブリはヤマトゴキブリという種で、体長は雄が25~30 mm、雌が20~25 mm、チャバネゴキブリの倍くらいの大きさがあります。雌ははねが短く、雄と雌でかなり違った姿をしていることが特徴的です。

北海道のような寒冷地では小さなゴキブリ(チャバネゴキブリ)はいるが、大きなゴキブリは生きていけないという「説」をよく聞きますが、これは間違いで、低温期を休眠することでやり過ごすことができるヤマトゴキブリは、ゴキブリの中でも特に耐寒性が強い種です。また、ヤマトゴキブリは摂食や越冬のために屋内と野外を行き来する半野生の習性を持つことも知られており、北海道でも野外で見つかることがあります。

実は博物館のある小樽港周辺では1985年に小樽検疫所によってヤマトゴキブリの生息が確認されており、しかも放置された枕木や艀など屋外で主に見られることが報告されています。明治時代に遡る歴史から考えると、小樽港にはかなり早くからヤマトゴキブリがすみついていたのかもしれません。ちなみにこの調査で採集された標本も当館に収蔵されています。

当館ではゴキブリの出現は年に数回ほどで、常時住み着いているというほどの頻度ではありません。館内ではなく周辺の屋外にすんでいるものが、時々現れていると考えたほうが自然なのかもしれません。現在の小樽港周辺の状況については把握できていないので、この辺りはもう少し詳しく調べてみたいと考えています。

ゴキブリは来館者を不快にさせるばかりでなく、博物館の資料、特に文書への食害が知られており、本当はあまり姿を見せてほしくない生き物です。しかし、人の手を介して運ばれ、世代を繋いできたという点では、地域の歴史や経済と深く関わってきたユニークな存在と言えます。

(小樽市総合博物館 学芸員 山本亜生)