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ヒトと自然の間柄【コラムリレー第19回】

初めに

 このコラムを書くに当たって、まず

 私の残したいモノは、富良野市内の鳥沼公園に残る昔ながらの自然です!今、富良野市博物館では鳥沼公園の自然を調査記録していく市民講座を開催し、自然に親しむ心を育て、貴重な鳥沼公園の自然を守り残していく運動をしています。

という風に描き始めようとしたのだが、ふと考え込んでしまった。人びとが身近な自然を大切にしようという気持ちを持ち、博物館がそれを推進するのはなぜだろうか?

  予定とは違うが、気になったものはしょうがない。ということでヒトにとって自然とは何かということからはじめて、その中で鳥沼・生き物調査隊という講座の活動を紹介していこうと思う。

 

 

 

富良野の人々の自然観の変化

 富良野地域に初めて人々が入植したとき、彼らは自然に対する大きな怖れを感じただろう。ひたすら広がる原野を前に、これからこの未開の地に家をたて、農場を作って食料を生産し生活していかねばならない、と。同時に怖れる気持ちを奮い立たせ、鍬を握り開墾をはじめたのだ。彼らは自然をどうかんじただろうか?圧倒的な存在感に、ときには敵意すら感じたのではないか。

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開拓なった富良野(東山地区)の風景(市内在住の横井弘道さん提供)

  それから約120年。いつ果てるとも無かった開拓も、不断の努力によって飛躍的に進んだ。現在、富良野市域の7割は森林だが、その森林地帯も多くは東大演習林や国有林の敷地として用材利用がなされている。低地もほとんどは市街地や田畑、牧畜業に使われており、人の手が入らない場所はない。今日、人々が自然に対する怖れを抱く機会はほとんど無く、憩いの場や自然観察の場として親しまれる事が多い。極端な言い方をすれば、自然は敵から見方になった。あるいは、圧倒的に巨大な存在から身近で近しい存在になった。

  富良野市に限らず、「身近な自然を大切にしよう」という機運は、近代の公害問題に端を発し、さらにここ数十年の「地球温暖化」をはじめとする地球規模の環境保全への取り組みと共に高まったと言われる。

 ただ、身近な自然を大切にすることでそれらの問題が解決するというのは少し飛躍があるので、こういった気持ちが持続するのには別の理由があるはずだ。

  これから、その理由を探しながら、富良野市博物館が鳥沼公園で行っている自然調査の講座「鳥沼・生きもの調査隊」について説明していこう。

 

鳥沼・生き物調査隊

 鳥沼公園は富良野市街地から車で10分ほどの鳥沼地区にある池、山地林、湿地林などを含む自然豊かなエリアだ。低地ではほぼ唯一、建物が建てられたり、農業などの利用がされていない。公園整備や自動車道が通されるなど造成工事を経て現在の形となっているので、完全に昔のまま残っているわけではないが、開拓以前の沼沢地に近い自然環境が残されている。

  鳥沼・生き物調査隊は昨年度から3年程度かけて、この鳥沼公園の自然を様々な角度から調査し、記録を残していく市民参加の自然調査の講座で、旭川大学地域研究所の齋藤和範さんを講師(実質的には全体的なアドバイザー)をお願いして開催している。

目的として次の3つの事項を考えた。「参加者に地元の自然に親しんでもらう」「鳥沼公園の自然環境を記録する」「鳥沼公園の自然環境を保全する」。

 

一年目春~夏の活動

  まず、初年度・春~夏の回の調査結果や講座の様子を振り返ろう。年輩の方から子供たちまで広い世代にわたり20名近くの方が参加し、5月19日、6月16日の2回にわたって、草花の開花調査、小型哺乳類相の調査を中心に開催した。

 下の表は、草花の開花調査の代表的な種についての調査結果だ。

Phenology

開花調査結果

 春や初夏限定で花を咲かせる植物や夏中(もしくは一年中)花を咲かせている植物など、開花時期について色々な傾向の植物が確認できた。これは、ミズナラ、アサダなどの落葉広葉樹林のエリアが広く存在しているためのようだ。落葉樹は秋に葉を落とし、5月頃から葉を茂らせていくので、夏の間林床は薄暗くなるが、落葉する晩秋~初夏は明るい環境になる。そのため、雪融け後の4~5月は丈の低い植物が日光を利用しやすくなるのだ。

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オクエゾサイシン

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エゾエンゴサク

 

 小型哺乳類相の調査(墜落缶、箱罠を用いたトガリネズミ類、ネズミ類の生物相調査)では、下の二つの表のような結果となった。トガリネズミ類ではオオアシトガリネズミがほとんど。それらは湿地林にはほとんど出現しなかったが、これはトガリネズミ類がモグラに近い仲間で、生息環境である積もった落ち葉が湿地林で少ないためのようだ。ネズミ類は個体数は少ないものの3種類が確認できた。 

トガリネズミ結果

 

トガリネズミ類相の調査結果

ネズミ結果

ネズミ類相の調査結果

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エゾアカネズミ

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エゾヤチネズミ

 開花調査は草花の(ほぼ)全てを調べる植物相調査と並行して行ったが、一般的な自然観察会では片っ端から植物の種類を調べるということはしないので、「草花って同じように見えていたけどこんなに違うんだね、はあ~」と圧倒されたような顔をされる方もいた。これは、植物標本の作り方、開花調査などの調査手法の紹介などでも同じような感想を与えたようだった。一方、トガリネズミ類やネズミ類の捕獲は、草花や虫と違い間近で見ることの少ない小動物に親しむことができる貴重な機会を提供できたようだった。こちらでは「身近にこんな動物がいたのに、知らなかった」「素早い!(鈍くさい!)」といった感想が聞かれた。また、このときは自然に造形が深い参加者も多く、互いに知っていることを教えあう場面が多く見られ、「スタッフが教える」場ではなく「参加者がこの場を利用して互いに自然について学ぶ」場ができていた。

 

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開花調査の様子

調査の中核:樹木調査

 一年目の冬に行った樹木調査は調査活動の中核になりそうだ。樹木が森林の特徴を決める最大の要素だからというのも理由の一つだが、もう一つ、1995年に富良野高校科学部が公園の一角(湿地林)で毎木調査(エリア内の全ての樹の樹種、直径の計測)を行っており、この調査のみ過去との比較ができることが大きな理由だ。

 調査によりわかったことは様々だったが、ここでは湿地林の主要樹種ハンノキの直径階分布(太さごとの本数の比較)の1995年と2013年の比較についての結果のみ、下のグラフに示した。わかったことは、89本から52本と大きく減少したこと、内訳を見ても60㎝以上の超大木を除けば、様々な直径段階で減少が進んでいることだ。科学的な因果関係の証明まではできていないが、約20年前の遊歩道や排水路が設置されているので、そのために日射量が増加や風の吹きこみなどによって乾燥化が一層進行したのではないかと考えている。

ハンノキ直径階

ハンノキの胸高直径階分布

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樹木調査(毎木調査)の様子

 また、この調査で実感させられたのは継続的な調査の重要性であった。樹木相は、20年前の調査結果があるからこそ、明らかに変化し問題となっていることがわかった。それを考えると、今回行っている様々な生物相調査も、将来比較する対象となりうる非常に意味のある調査なのだとわかる。

 

今後の調査の展望

 今後は樹木相の変化を、無機的環境の点から調べるため、地下水位や日射量の調査をしたり、春植物の生態にせまる調査を計画している。また、遊歩道と公園横のベベルイ川に挟まれたエリアでは外来種ハリエンジュやオオハンゴンソウが相当増えているので、最終的にはオオハンゴンソウの抜き取り(すでに定期的に行っている)、ハリエンジュの伐採と在来樹種の植樹を組み合わせ、より暗く湿った森をとり戻そうと考えているが・・・これはまだ先の話。

 

終わりに

  講座の目的を振り返ると、「鳥沼公園の自然の記録と保全」「参加者に自然に親しんでもらう」ことの二つが車の両輪となっていたことに気付かされる。ただし、これは博物館の目線。参加者は、「自然に触れて楽しいから」参加してくれるのだ(だけではないかもしれないが、参加者を増やしていくためにはそのように想定するべきだと思っている)。

 そこまで考えて「身近な自然を大切にしよう」という気持ちのもとは、地域愛(地元愛?)なのかもしれないと考えた。これは文化的なものと同じで、子どもの頃育った地元の個人商店やお祭りは、子どもの頃は大して価値を感じていたわけではないかもしれない。しかし、大人になってふと無くなっているとさびしい気持ちになる。自然もそういうものではないだろうか?

 つまり、この講座の参加者が、富良野地域のもともとの自然環境について知り、それを自分のルーツだと認識できるって素晴らしいことだと思うのだ。その上で、参加者の何人かがその自然を守り残していきたいという思いが生まれたら・・・。

 <富良野市博物館 泉 団>

 

 次回は、小樽市総合博物館の伊藤公裕さんの投稿です。お楽しみに!