「学芸員っていいかもなぁ」。恥ずかしながらそう考えたのは、高校3年のことでした。部活を引退し、受験勉強の現実逃避で、放課後を網走の郷土博物館やモヨロ貝塚館で時々やり過し、ろくに勉強や研究もしていないのに、展示物を眺めて夢想しました。
幼い頃、当時暮した登別の浜辺を父と散策し、貝殻などを拾い集めました。収集物は洗浄し、箱の中に並べて「宝箱」にしました。室蘭市青少年科学館の科学教室に通い、発見や体験の楽しさを知りました。その後、出会いがあって歴史学に興味を抱くようになりますが、まだ個人的に楽しむだけで誰かに見せたり、伝えたいとは考えなかったようです。
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■調べるって楽しい
学芸員の仕事は、調査研究・資料収集・資料保存・展示・講座などの普及活動やレファレンス、広報など実に様々ですが、原点はモノやコト、ヒトと直接向き合う調査研究や資料収集にあります。その原点となる活動では、単なる収集に留まらず、モノ・コトに応じて観察し、計測し、撮影し、図化やスケッチをし、標本を採取し、聞いて、比較し、所見をまとめ、記録などします。条件によって、研究や保存、展示などへと発展します。
今春、私が担当した企画展と関連の講演会がコロナ禍で中止に追い込まれ、博物館も閉館になりました。落胆しましたが、「これはチャンス!」と思い直し、そもそも「原点」なのに取り組めず、やきもきしていた案件の測量・実測調査を実施することにしました。
写真は、富良野市山部地区にある昭和12年建造の「監的壕(かんてきごう)」と呼ばれる戦争遺跡の遺構の中で、当時を記憶する方に聞き取りをしています。これは帝国在郷軍人会山部分会が建造した射撃場の的場で、空知川の河原にあり、全長13.4m、全幅2.4m、全高約2mを計る箱型のコンクリート造構造物と周囲の盛土で構成されます。構造物上部の開口部から板張りの的が3基掲げられ、200m離れた農地に設けた射場から、射撃訓練が行われました。私、こういう歴史的な遺構や建造物に心を奪われます。「ズキュン」です。
とにかく、あらためてじっくり観察しながら測量・実測しました。運良く、調査中に写真の男性に出会い、お話を伺って全体像が理解できました。「澤田さん、楽しそうですね♪」とは手伝いの同僚談。仕事であろうとなかろうと、調べるって発見と出会いがあって、実に楽しいものです。今は個人的な楽しみでなく、「伝えたい」「遺したい」という想いが主体で、共有できる仲間もいるので、幼い頃の貝殻収集よりも喜びが大きくなります。調査結果はこれからまとめて公表する予定ですが、凄惨な戦争の記憶を伝える文化財として、しっかりと未来に遺していけるか否かが、今後の大きな課題であり、使命でもあると考えます。
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■楽しいを広げよう
富良野市には東京大学北海道演習林の約200㎢に及ぶ広大な森林が拡がります。一部の自然観察路をお借りして、博物館では市内の小中学生を対象に、地域の森林や樹木などを学ぶ「森林学習プログラム」に取り組んでいます。プログラムづくりに協力する北海道教育大学旭川校理科教育教室の学生たちと私たちが心がけるのは、ヒントやきっかけは与えても、干渉し過ぎないこと。五感を働かせて、まずは自分たちでやってみること。
必ずしも毎度上手くはいきませんが、子どもたちが発見し、体感し、夢中で調べる様を目撃した時、大人とか子どもとか関係なく、同じ目線で感動と喜びを共有します。「あぁ、調べるって楽しいね!」、そう思います。たった一瞬の経験かもしれませんが、彼らのその感動や喜びが、近い将来、自分たちが見つけた足元の何かを「みんなに伝えたい」「大切にしたい」って、思ってくれたら嬉しい。学芸員の仕事にはこんなミッションも含まれているはずです。
<富良野市博物館 学芸員 澤田 健>