昨今のコロナ禍によって、飲食店では「持ち帰り」や「デリバリー」を導入するところが多くなりましたが、実は博物館で働いている私にも「デリバリー」の仕事があります。
もちろんお弁当を届けるわけではありません。依頼に応じて、博物館が持っている地元の自然に関するお話や体験活動を市内の各種団体まで届けます。これを私が勤務する士別市立博物館では「出前講座」と呼んでいます。お届け先は、学校や自治会、公民館、老人クラブなど。様々なところから声がかかります。依頼を受けると、それぞれの活動場所にお邪魔します。
学校が一番のお得意先です。市内のとある小学校では、毎年クラブ活動の時間を使って、年に数回程度、標本づくりや化石のレプリカづくりなどの体験指導を行っています。体験を通して、地元で見られる生き物や周辺地域の大地の歴史を紹介しています。学芸員の都合がつかない場合は、担当の先生に事前に体験セット一式を「お持ち帰り」してもらう(貸出する)こともあります。
最近では理科室へのデリバリーも増えています。理科の教科書は、全国共通の内容のため、取り上げられている題材がこの辺りの地域性と合致しない場合があります。例えば、季節と生きものの移り変わりの単元では、北海道では旅鳥のオナガガモが冬鳥として掲載されていました。担当の理科の先生とは、地元の題材を取り入れた士別ならではの理科の教材が出来ればよいねと話しながら、今後の博学連携の取り組みを思い描いています。
市内の中心市街地を離れた地区へのデリバリーも行っています。複数のまちが合併した経緯から広大な面積を有している士別市では、学芸員の活動を市内の全域までカバーするのは難しくもありますが、各地区での出前講座は情報収集の助けにもなっています。
とある地区の公民館からの依頼で、かつてホタルを放流していた場所付近で昆虫採集の体験活動に取り組む機会がありました。市内では外来のゲンジボタルの生息が示唆される報告もあったことから、その場所ではゲンジがいるものだと思っていたところ、確認できたのは在来のヘイケボタルの方でした。公民館に残されていた記録では、両種とも放流したことがあったようで、今見られるのはその生き残り?なのかもしれません。
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学芸員は、博物館が持つ「資料の収集・保管」「調査研究」「展示・教育普及」という役割を担う専門職員です。どんな学芸員の仕事も、根底にあるものは共通しているとは思いますが、実際の業務は、所属する館園によっても大きく異なります。
士別市立博物館では、資料の収集や調査活動を土台にしつつも、長年教育普及活動に力を入れてきました。博物館が取り組む普及活動の多くは、来館「してもらう」、参加「してもらう」という、言わば受け身の取り組みです。その中でも当館では、より多くの方をターゲットとするために、積極的に地域に赴く「出前講座」を充実させています。
出前講座は他の普及活動よりも、普段博物館との接点がない方々とつながりが出来るという意味で貴重な機会になっています。学芸員のデリバリーは、博物館と地域をつなぐ仕事の一つです。
士別市立博物館 主事学芸員 本部哲矢