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「この洋式便器はだれが使ったもの?【コラムリレー第19回】」

 

新冠町郷土資料館の収蔵庫には、あらゆる資料が収蔵され棚に並んでいます。

「本当にこれいるの?」ということをよく言われたりしますが、ひとつひとつの資料にはそれぞれの物語や思い出がともに生きていますので、いつまでも大切に保管しなければならないと日々感じています。

様々な資料が陳列されている収蔵庫の中で、ひときわ異彩を放つものが写真の「洋式便器」です。たまに収蔵庫を見学に来る方も必ず目にとまる「逸品?」です。この便器は何をモノ語るのでしょうか。

 

新冠町郷土資料館収蔵 洋式便器

 

 

新冠の奥地にかつて「駅逓所」という建物がありました。これは北海道が開設した建物で、昭和4年から19年までの間、この場所で郵便物の配達や旅人の宿泊、山道を行く馬の飼育をする業務を行っていました。

この駅逓所の建物と廊下でつながっていた家がありました。この家は、北欧大使が使っていた別荘です。大使は、ラトビア国名誉領事のハンス・ハンターという人で、イギリス人の父と日本人の母の間に生まれ、日本名を「範多 範三郎(はんた はんざぶろう)」といいます。この人物は、名誉領事として活躍する他、鉱山を経営する実業家でもあり、さらに財界人や高官が集う「マス釣りクラブ」の設立者だったとのこと。主に「フライフィッシング(毛鉤釣り)」を行い、ハンターはこの駅逓所とつながる別荘を拠点に、地元アイヌ民族の方々の案内でマス釣りを楽しんでいたそうです。写真の便器は、この別荘で使用されていたものとなります。

ハンターはすでに故人となり、駅逓所や別荘の建物もなくなってしまった今、このことを知る人は新冠町においてもほとんどいなくなってしまいました。唯一この便器だけが、当時の思い出を偲ぶモノだといえます。

 

<新冠町郷土資料館 学芸員 新川剛生>