学芸員ごころ
私が初めて学芸員と接したのはいつだろうか?中学生の夏休み、大阪市自然史博物館での同定会だったかもしれない。生物部、夏休みの合宿などで採取した昆虫類の種名について間違いがないか同定してもらった。記憶にあるのは「標本をきれいに作ること」「もっと真剣に同定すること」そして「ええもんとれたな~」との言葉である。指導してくれたのは、職種としての学芸員だけでなく、学校の先生や愛好家もいたことだろう。
実際に学芸員から刺激を受けたのは、大学1年の時である。ひがし大雪博物館、釧路市立博物館の学芸員の諸先輩方。釧路市立博物館は、釧路湿原国立公園の指定に大きく寄与したが、それより、釧路自然保護協会ととともに釧路湿原の価値を評価できる情報を収集し、自然保護に取り組んでいた。ひがし大雪博物館でも、十勝自然保護協会とともに東大雪の自然史の解明と保護に関わっていた。講演会や自然観察会に参加していく中で、学芸員へのあこがれが、私に芽生えたといってもよいだろう。
知床が世界自然遺産に指定されたベースには、知床博物館などが地道に蓄積してきた情報があったはずである。しかし、一般どころか、博物館関係者からも評価されることはなかったように思う、それは、博物館活動として当たり前だからだろうか?
博物館が博物館であるためには、博物館の3本柱「収集保存」「調査研究」「教育普及」が機能していること、その担い手が学芸員であると学んだ。
小さな施設では職員数も限られているが、この3つの機能の重要さは同じだ。ちなみに、日本博物館協会では2012年に「博物館の原則」(10項目)を定めている。博物館の無「無目的」「無制限」「無計画」これを排除すると地域博物館の存在価値は著しく低下するだろう。
学芸員心のない人からは「そんなもの集めてどうするの」「同じものをたくさん集めるのか」と言われる。収蔵する資料の取捨選択は必要であるが、難しい。今、価値を見出せなくても、将来価値が高まるものもあるだろう。多様な視点が、未知の価値を想像できる。
地域の価値を高めることに学芸員は貢献できるはずである。そこに何があり、どう変わってきているのかを調べ報告できるのは、学芸員心を持っている人にしかできない。専門の学術雑誌でなくとも、研究紀要等に調査研究活動の成果を残すことは、学芸員の使命の一つである。学芸員には、好奇心と探究心、企画能力、実践力が不可欠であろう。
人間の欲の一つに「知識欲」がある。
それを満足させることができるのも学芸員。子供たちや地域の人々にわかりやすく伝える、体験学習も交え、探究心を高めることができるのも学芸員。
文化財や自然を次の世代に伝える仕事でもあり、楽しく仕事に打ち込めるのが学芸員。これからも学芸員心を持った活動を続けていきたい。
小中学生の皆さん、高校生大学生も、学芸員ごころを持とうではないか!
(えりも町教育委員会 中岡利泰)