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鳥を録る【コラムリレー07 第18回】

「とる」にもさまざまです。取る、捕る、撮る・・・そして「録る」。録音のことですね。

 一般的に「録音」をする場面とは、どのような状況があるでしょうか。音楽をされる方は、自分の音を確認するために録音をする場合があるかと思います。テレビの記者会見では、会見者の周りに録音機器がたくさん置いてあったりします。いずれにせよ、「音を残したい、その後に改めて確認したい。」ときに使われることになります。

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 博物館の仕事の中で、地域の人から昔の暮らしを聞き取って残すというものがあります。その際、聞き取ったことをノートへ書き記しつつ、同時に録音しておけば、二重の記録になります。ノートの記述が間違っていないか後から確認できますし、話をしている人の声色や声の大きさ等から、文字だけでは読み取れない昔の状況を想像する情報にもなるかもしれません。かなりざっくり言えば、野鳥の録音はそれの鳥版だと思って頂ければ良いかと思います。

 どのような機材で録音するかですが、今の主流はICレコーダーでの録音です。レコーダーが手元にない時、私はスマホの録音機能で代用することもあります。また、映像と音を両方とりたい時は、ビデオカメラを使用します。

 レコーダーの機種を選ぶ上で私が重要視する点は、タイマー録音機能の有無です。この機能があれば、事前に任意の場所へ設置しておくことで、無人で指定した時間帯に録音することができます。鳥の繁殖期だと、早朝から活発に鳴く鳥が多く、夜明け前から調査をすることが度々あります。この機能があれば、そういった労力を軽減することができ、大変ありがたいのです。そして、もう一つ重要なのは外付けマイクです。人と話すときのように、野鳥の隣で録音するわけにはいきません。そのため、遠くで鳴いている声でも拾える集音効果が高い機種をレコーダーに付けて使用しています。ときには、テレビの電波を受信するパラポラアンテナのようなタイプも使って録音しています。

タイマー録音機能を使えば、無人録音も可能です。

 録音した鳴き声から分かることは様々です。鳥は種類によって鳴き方が違うため、録音した音からそれを聞き分けることで、ここはおよそ何種類くらいの野鳥が生息しているのか分かります。多くの生き物は自分の好きな環境で暮らすという性質があるため、鳥の種類が分かればそこがどのような地形、植生、生物の多様性があるか等について逆算することが可能になります。また、長期間同じ場所で録音を続ければ、ある種類、例えば渡り鳥のノビタキがいつからいつまでそこに滞在していたかも分かるでしょう。そういった地域の自然情報を知る手段の一つとして、録音はとても有効です。そして、録音した音声は展示や講演会などで活用しています。写真パネルだけでなく、音声を組み合わせることで、その生き物について来館者へより分かりやすく伝えることができると思います。

パラポラでの録音の様子。これなら小鳥の羽音まで拾えます。

 ある時のことです。1970年代の釧路川を、市民がボートで川下りしたという映像が残されており、それを寄贈頂き見る機会がありました。その映像の音声に、たまたまシマアオジという鳥のさえずりが入っていました。この鳥は環境省の絶滅危惧種に指定されており、その中で最も絶滅の危険度が高いランクに位置づけられています。国内において、かつては北海道全域に広く生息していましたが、現在は北海道の北部しか渡来していないとされ、ここ釧路でもずいぶん前から確認されなくなってしまいました。何気ない映像からシマアオジの、のどやかなさえずりが聞こえてきたとき、昔はごく当たり前にいた鳥だったことを実感しました。そして、なんとなく当時のおおらかな雰囲気も伝わってきて、改めて録音の重要性を認識した機会になりました。

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 音には不思議な力があるように思います。映像のBGMなら、その映像をより際立たせることができますし、音声だけなら、映像が無いからこそ聞く人の想像力がかきたてられます。地域の自然情報収集の為はもちろんのこと、その地域特有の空気感のようなものも野鳥を通して録音し、展示などを通して皆さんと共有していけるようにしたいと思っています。

(釧路市立博物館 貞國 利夫)