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鳥を録(と)る【コラムリレー第34回】

「学生時代に鳥の鳴き声について調べていました」と言うと、「どんな鳥の声でも聞き分けられるの?」と聞かれることがあります。飼い鳥を相手にしていたこともあり、残念ながら、そんなでもありませんが、せっかくだからと、「鳥の声なら任せろ」と言えるように、野鳥の声を録りながら、勉強しています。

野鳥を調べる上で、「鳥の声を録ること」は、草木に隠れがちな鳥や夜行性の鳥、他種と紛らわしい鳥について、種を同定して記録を残すにあたって有用な手段の一つです。文字で記すだけでも良いですが、これだけでは、類似種との判別が難しい場合があり、また再現性が高くありません。野鳥の録音と聞くと、パラボラアンテナのような形の機材が必要では?と思いがちですが、今では録音機器の性能も上がり、手帳サイズの小型の録音機本体のみでも十分です。聞きなれない鳴き声や珍しい鳥の鳴き声が聞こえた時には、さっと取り出して、録音するようにしています。

鳴き声を記録したら、次に確認作業です。最近では鳴き声の音源が付属した図鑑が普及していますから、それらを活用したり、ホームページで公開されている音源を見本にして、聞き比べます。特徴的な鳴き声の場合は、カタカナ表記から検索をかけてみると、候補になる鳥がヒットして、おおよその見当をつけられることもあります。

ソナグラムの例(ウグイス):縦軸が音の高さ(周波数)、横軸が音の長さ、色の濃さが音の大きさを表している。

耳で聴き比べるだけでは特定できない場合、鳴き声をグラフで表して可視化します。このグラフのことをソナグラムと言い、各個人で固有の模様を示す指紋に似ていることから、声紋とも呼ばれています。パソコンとフリーの解析ソフトがあれば、比較的容易に見ることができます。ソナグラムで録音した鳴き声と見本の音源を比較すると、音の高さ(周波数)や長さなど、より詳細な比較ができるようになります、

設置用録音機(左)、レコーダー(中央)、音源付き参考図書(右)

録音する方法としては、レコーダーをめぼしいポイントに設置して、定点で記録する方法もあります。物は試しと、4月下旬の雪解け半ばのころ、博物館の裏山、日の出の時間を目安に4~5時にタイマーをセットしてみました。時期が早かったこともあり、夏鳥が少ないですが、1時間で7種の鳥が確認されました(ウグイス、キジバト、ヤブサメ、シジュウカラ、ゴジュウカラ、ハシブトガラス、ヒヨドリ)。時期が遅ければ、きっと種数は増えたでしょう。

問題としては、1点目は解析・確認作業に時間がかかること、1時間の音声データについて、1時間以上は要してしまいます。2点目はどうしても判別不能な鳴き声が出てくることです。観察データとしてはどうも扱いにくいところですが、通常のルートセンサスの調査のサポートする情報としての活用や、夜行性の鳥、希少な鳥など対象を特定の種に絞るのがよいのかもしれません。

余談ですが、博物館の利用者から「散歩していたら緑っぽい鳥を見た」「家の庭でなにか騒いでいる鳥がいるのだけど」といった風に、鳥の名前を聞かれることがあります。状況証拠から、これかな?と見当をつけるのですが、色は光の加減で見え方が変わるし、聞こえた鳴き声を人に伝えるのは、たいへんです。そんな時に言うことは、「もし今度気になる鳥がいたら、スマホなり携帯で、動画を撮っておいてください。動画であれば、写真よりも簡単に姿を捉えられるし、鳴き声を拾って記録することができます。」と。

野鳥の鳴き声は、鳥の魅力の一つでもあり、録音して記録を残すことは、地域の鳥類相を明らかにすることにもつながります。こういった活動を続けていきながら、地域の自然やそこに住む鳥に興味を持つ人が増えてくれればいいなと思います。

〈士別市立博物館 学芸員 本部哲矢〉