Breaking News
Home » 地域の遺産 » 豊似湖の自然と伝説【コラムリレー第7回】

豊似湖の自然と伝説【コラムリレー第7回】

えりも町字目黒市街地から林道を車で進むこと約15分。林道の終点から車を降りて、遊歩道を200mほど歩くと、周囲をミズナラ、トドマツ等の針広混交林に囲まれたハートの湖、豊似湖にたどり着く。

豊似湖は日高山脈襟裳国定公園内にあり、周囲約1kmの自然湖で、土砂崩れなどによってできた堰き止め湖である。アイヌ語では「カムイトウ(神の住む沼)」とも呼ばれ、アイヌの人々にとっては祈りの対象となる聖地のような沼である。地元では「馬蹄湖」と呼ぶ人もいる。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

豊似湖入り口から

  豊似湖が「馬蹄湖」と呼ばれているのには、このような伝説が関係している。

観音岳の山腹にある豊似湖は、馬のヒヅメの形をしておるが、あれには深いわけがある。

寛政十年(1798)というから、今から二百年以上も前のことだ。

近藤重蔵という偉い探検家が、千島を探検して帰る途中、この湖の上の山道を通った。

そうしたら突風が吹き荒れて、家来の一人がかわいそうに馬もろともがけから転落してしまった。

そのときからだんだん湖はヒヅメの形に変わってきたんだ。

周りの石にもくっきりとヒヅメの跡のついたのがある。

豊似湖は不思議な湖だ。

水が増えたり減ったりするのが、潮の干満と関係があるようなもんだ。

もっと不思議なのは庶野のどんどん岩とどこかでつながっているとも伝えられていることだ。

※えりも町役場 商工観光係作成 「えりも拝見」 より引用

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

豊似湖奥より入り口に向かって

昔から豊似湖は地元の人々に利用されており、湖畔にあるカツラの大木の根元から湧き出る水は難病に聞くといわれ、難病の家族のために汲みに通ったと言われている。また、湖畔でキャンプやバーベキューをした人や、結氷した湖面でワカサギ釣りを楽しんだ人もいたのだが、現在では、そのような利用はほとんど見られない。

IMG_0529-1
豊似湖とその周辺の混交林にはさまざまな生物が生息しており、エゾシカやエゾヒグマ、エゾリスなどが生息している。また、ニホンザリガニ(環境省レッドリスト絶滅危惧種Ⅱ類VU)や、エゾナキウサギ(環境省レッドリスト準絶滅危惧種NT)などの希少生物の生息が確認されており、豊似湖とその周辺の混交林は希少生物の生育環境が整っていると思われる、保護すべき場所である。

しかし、このような希少な生物が生息する湖の利用に関しては、特に立ち入りが制限されていない。現在は人が自由に出入りでき、登山客や観光客、写真家などの利用がみられる。今後、観光面での利用者数の増加が期待されているが、利用者が増えることによって、人の立ち入りによる環境悪化や、野生動物や植物などへの影響が懸念される。

豊似湖に伝わる伝説と湖の自然環境の貴重性について、地域の方々とともに調査を進め、利用者などに周知していくことで、湖とその周辺の環境を守っていくことができればと思う。

 

<えりも町郷土資料館 地域おこし協力隊員 髙木大稔>