博物館では学芸員がさまざまな資料を収集し保存する仕事をしています。資料の中身は形のある物体や生物であったり、目に見えない情報であったりします。そうした物事を収集する行動は「採集」や「採取」と表現され、つまりは何かを「とる」行為です。「とる」は様々な漢字で表されます。取る、採る、捕る、獲る、録る、撮る・・・。
私の専門分野は植物分類学なので、私自ら収集する物は主に植物です。植物を「とる」場合は、主に「採る」「採集する」と表現します。今回、秘密の道具として紹介する“ウキクサ・キャッチャー”は文字通り、水面を浮いて漂いながら生きるウキクサ類を掬い取るために使っています。本来の用途は、写真のように家庭の風呂場で見かける物で、湯船の水面に浮いた細かなゴミをすくって取り除くための道具です。ウキクサ類は植物体のサイズが2~5mmほどの小さな植物です。その小ささたるや、観察会で「これって、カビですか?」と言われてしまうくらいです。
英語のcatchはどちらかというと動物に対して使われるので、植物採集の道具を“キャッチャー”と表現するのは違和感があるかもしれません。しかし敢えて“キャッチャー”としたのは、ウキクサの仲間は手で掴もうとしても、手をすり抜けて水と一緒に「逃げる」からです。そのため、1つ1つ手で摘まんで採集したり、標本にしたりする作業はちょっとイライラしてしまいます。そこで活躍するのが“ウキクサ・キャッチャー”なのです。しかも、“ウキクサ・キャッチャー”は軽く小型でスマート!さらに、100円均一ショップでも入手できるため、気軽に水草採集が始められます。
この智恵を教えてくれたのは水草研究会の先輩方でした。そのようにして各人の秘密の道具が秘密で終わることなく、同好の士や同じ分野の研究者に共有されることで、資料収集のノウハウやその面白味も伝わっていくのだろうと思います。
※“ウキクサ・キャッチャー”は私が便宜的にそう呼んでいる名前で、一般的に通用する名称ではありません。
山崎真実(札幌市博物館活動センター学芸員)