今回は私が使っているメジャーとノギスという「測る道具」をご紹介します。私たちの仕事の中ではよく使われる道具ですが、資料を傷つけるリスクを減らしたいという考えから、素材に配慮した計測用具を紹介します。
まずはメジャーですが、これは柔らかいグラスファイバーでできており、長尺の紙資料や着物などの計測に使っています。構造としては目盛の付いたテープだけで、金属製の部品や尖った部分はありません。洋服を作るテーラーが肩から下げているような巻尺をイメージしてもらえばわかりやすいと思います。実際、裁縫用に売られているものです。巻いてケースに入ればコンパクトに収まり、機械的な巻き取り機構もないので壊れる心配もありません。
次にノギスですが、この道具は資料の厚みや穴の深さを測る道具です。この道具は考古資料や民具資料の図を書く際に使っています。作図では、計測用具を資料に直接あてて測りますが、計測するポイントが多くなると、資料に当てる回数も多くなります。ノギスは精密な計測用具ですので一般的に金属で作られています。また構造上、資料にあたる部分が尖っていますので、不慮の事故の際に資料にあたえるダメージを考えてしまいます。
ところがこのノギスはポリカーボネートでできています。ホームセンターで売っていたのを見つけ、使ってみたところ軽量で取り回しも楽で、資料を傷つけるリスクもだいぶ減るのではないかと思い使い続けています。既に10年以上は使っていますが、耐久性も問題ありませんし、価格も600円程度と安価であることも魅力です。
ある大学の考古学の先生と、このポリカーボネート製のノギスの話になったことがあります。オーストラリアの研究者から依頼され、数本送ってやったということでした。私が使っているメーカーは、金属製のノギスも作っている測定機器メーカーのものですが、どうも日本国内だと2社程度しか作っていないようです。信頼できるものとなると、案外、海外では入手が困難なのでしょうか。
どうしてこんな話をするかというと、以前在籍していた職場で、とある高名な研究者が資料調査に来られた際、金属製の計測用具を取り出し、資料に「カツカツ」と音が鳴るくらい計測用具を当てながら図を書いていたのを見て、気をつけないといけないなと思ったからです。特に考古学や民具学では、論文や報告書が紙で印刷される以上、資料の作図は必須で、当分、計測用具を資料にあてる方法がとられます。図化の過程は資料の熟覧につながるので、できるだけ資料を傷つけたりするリスクの少ない用具を選んでいきたいと考えています。
(根室市歴史と自然の資料館 猪熊樹人)