冬になると越冬のため南下してきたオオワシ・オジロワシを見かける機会が多くなる。
海ワシ類とも呼ばれ、沿岸を中心に生息し、魚や海獣類の死体などを食べる大型猛禽類である。
オオワシは、大きな体に黒と白のコントラストがはっきりとしていて、黄色い嘴がひと際目立つ美しい鳥である。獲物を捕まえるときに伸ばした足の姿は、まるで股引を履いているようにも見え、愛嬌がある。
オジロワシはその名のとおり、尾羽が白く一目でわかりやすく、観察しやすい。
オオワシに比べると品があるように見えるのは私だけだろうか。
そして、この2種類の猛禽類は比較的同じ場所で目撃することも多い。
なので、「オジロ・オオワシ」などとひとくくりで呼ぶこともある。
ところが、オオワシについては国内外において、オジロワシについては国内において絶滅危惧Ⅱ類(VU)の指定を受けている希少動物なのである。
彼らがその数を減らした要因は様々あげられるが、その1つに「鉛中毒」があげられる。彼らの「鉛中毒」は、エゾシカ猟などで使用された鉛弾を猛禽類が飲み込んでしまうことで発症している。
その接点は何なのか?
平成26年のエゾシカの推定生息数は約48万頭と報告され、平成22年ピーク時の63万頭から15万頭減っている。これはエゾシカの生息数が増え続け、深刻な自然環境破壊が進んだことへの対策として個体数管理が行われた結果である。
本来、草食動物であるエゾシカには天敵となる動物がいて、増加への制限圧がかかるはずである。しかし、天敵となるエゾオオカミは、明治時代に絶滅し、我々においては家畜動物による食糧供給が十分に行われるようになった現代、食糧目的の狩猟があまり行われなくなった。また、近年では温暖化の影響からか、越冬できない個体が少なくなり、更に制限圧がかからなくなったのである。
こうした背景から、平成22年まで、右肩上がりに増え続けたエゾシカによる植生への影響は著しく、それらの植物を利用する動物にまで被害が及んでいるとされている。また農業被害についても平成24年度には約63億円と影響が大きい。
そこで、エゾシカの個体数を管理するために、駆除目的の狩猟も行われるようになり、上述のように個体数が減少してきた。エゾシカの個体数だけを見ると効果が出てきたと見ることができる。
しかし、仕留めたエゾシカは、必要な部位だけを獲り、残滓が放置されていくマナー違反が後をたたない。
こうして残されたエゾシカ肉を求めて、もともと沿岸に生息するオオワシ・オジロワシなどの猛禽類が内陸に入ってくるケースが増え、鉛弾を含んだ肉を摂取することで体内に鉛が溜まっていく。
鉛中毒になった猛禽類は本来の姿とは異なり、長く飛翔できなかったり、低空飛行や走って逃げる、更に弱っているとうずくまって動かない、人が近づいても逃げないなどの症状が見られ、万が一保護されても死亡するケースも少なくない。
おびひろ動物園にも鉛中毒が疑われるオジロワシが搬入されたが、所管機関への搬送途中で死亡した。
狩猟に使われる弾丸には鉛の他にも銅製のものなど種類はいろいろあるが、毒性がある鉛が今なお使用されている。その理由は様々あるようだが、実際にはこうした人間活動(鉛弾の使用及び残滓放置といったマナー違反)が本来の目的とは異なる2次被害をもたらしているのは事実である。
そのため、北海道では2000年にエゾシカ猟における鉛ライフル弾の禁止、2001年にエゾシカ猟における鉛散弾の禁止、2003年に狩猟によって発生する獲物の放棄の禁止、2004年にヒグマ猟を含むすべての大型獣の狩猟における鉛弾の使用禁止と対策をとってきた。
しかし、それから10年以上たつ今でも、鉛中毒に苦しみ、命を落とす動物がいるのである。
無くならない被害から、平成26年3月に公布された「北海道エゾシカ対策推進条例」では同年10月から使用だけでなく所持の禁止が追加された。
そして1年以上が経過し、今でもなお、鉛中毒で死に至る動物がいる。
エゾシカも、オオワシ・オジロワシももともと北海道に生息する動物である。しかし、そのどちらにも私たち人間の様々な活動が影響を与え、一方では過剰な増加を、一方では絶滅の恐れがあるほどの減少を招いている。
私たちが暮らす北海道の地域の遺産とも呼べる自然環境、そしてそこに暮らす野生動物は、黙っていても守ることは出来ない。
我々がすべきことは、まだまだあるはずである。
おびひろ動物園 学芸員 杉本加奈子