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博物館の、目立たないけれど、大事なウラ側 化石を中心に

【コラムリレー08「博物館?資料のウラ側」第15回】

札幌市南区から見つかったセミクジラ科化石。全長13メートル!の巨体は大迫力。そして、世界一保存状態のよいセミクジラ科化石です(詳しくは本文)。

はじめに 博物館の主要機能とは
 博物館にはオモテの顔とウラの顔があります。オモテの顔は華やかで、それは展示だったり講演会だったりイベントだったりします。博物館の仕事は展示を作ること、と考えておられる方は多いのではないでしょうか。
 実は展示作りは仕事の一部分で、博物館には「資料収集・保管」「研究」「交流活動」といった役割があります。これらは博物館の基本機能と呼ばれることもありますが「基本」というと簡単にできる印象がしてしまいます。誤解を避けるために、ここでは「博物館の主要機能」と呼びたいと思います。
「交流活動」は博物館のオモテの顔で、講演会や展示などあらゆる発信活動が含まれます。このコラムも交流活動の一つといえます。一方で「資料収集・保管」や「研究」は「交流活動」と比べるとあまり目立ちません。ですが、交流活動は資料収集・保管と研究によって支えられています。今回はこういった博物館のウラ側のお話です。

札幌市からみつかったセミクジラ化石のレプリカを、2025年3月に札幌の地下歩行空間チカホで展示した様子。

ウラ側でなにやってるの?クリーニング編
 美しく骨が並び、生き物らしくみえる展示。そこからは想像しにくいことかもしれませんが、もともとの化石は岩に包まれていて、なにがどうなっているのかわからないものでした。
 札幌市南区小金湯の豊平川から、2008年にセミクジラ類の化石が見つかりました。大勢の市民が発掘やクリーニングにかかわりました。クリーニング?洗濯でもしたのかな?と思われるかもしれませんがそうではありません。化石を岩のなかから取り出す作業をクリーニングというのです。
 クリーニングは心洗われる素晴らしい作業です。様々な道具を駆使して、化石にこびりついた岩を削り取り、弾き飛ばし、世界中のだれよりも早く、化石の表面を見ることができます。クリーニングの様子を動画にアップしていますので、こちらもご覧ください。

化石のクリーニングの様子。

ウラ側でなにやってるの?研究編
クリーニングがおわって、やっと化石は研究できる状態になります。およそ900万年前の札幌には海が入り込み、このセミクジラが泳いでいたことを想像すると不思議な気持ちです。このセミクジラが一体何者なのか?!研究を進めて、だんだん面白いことがわかってきました。1500文字以内で書くベシ、と言われていますので、一つだけご紹介します。
 札幌市からみつかったセミクジラ化石は、素晴らしい保存状態。頭から腰まで連なって保存されています。また、薄く壊れやすい肩甲骨(肩の骨)から腕、そして指まで残っています。指先や肩はふつう化石として残りにくい部位ですから、札幌市のセミクジラの化石は、セミクジラ科のなかでは断トツの保存状態で世界一の化石だと思っています。そこで2025年6月25日から企画展「世界一のセミクジラ化石展」を開催します(いま、必死で準備しています)。

博物館の魅力を作り出す仕組み
 発掘した標本をクリーニングし研究することで、標本の学術的価値が高まります。世界一とか、世界初とか、世界にココだけ、といった切り口で展示を作ることができるようになります。ここでは一例を挙げた限りですが、重要なことは「資料収集・保管」「研究」「交流活動」といった博物館の主要機能は独立しているのではく、それぞれが密接に関わり合って、博物館の魅力を作り出すという仕組みがあるのです。

札幌市の目指す博物館の展示室の一つ。巨大生物大集合の部屋。「(仮称)札幌博物館展示・事業基本計画」より。

おわりに
 博物館のオモテとウラをご紹介しました。博物館に対する興味が高まったら、ぜひ近所の博物館に遊びにいってみてください。そしていつか「博物館がなかったらいやだ」と感じる人が増えて、社会のなかに「博物館文化」が根付いていくといいなと思っています。
 札幌市では1986年から博物館計画を推進しています。私が働いている札幌市博物館活動センターはまだ正式な博物館ではなく、博物館を目指している施設です。2019年に展示・事業基本計画を発表しました。その中には大型生物を集めた展示室のイメージが描かれています。こんな展示室になったら楽しいだろうな、と思っています。博物館を作るという一大事業に参加してみたいな、楽しそう、と思われる方がいたらいいなと思っています。まずは、札幌市博物館活動センターのホームページをご覧ください。日々の様子を更新していますし、クジラの企画展も6月から始まり、週末はトークイベントなどもあります。そして面白そうだなと思われたら、ぜひご来館ください(無料です)。

 

田中嘉寛(札幌市博物館活動センター・学芸員、北海道大学総合博物館・資料部研究員、沼田町化石館・特別学芸員)

ご興味ある方へ
●学芸員と一緒に博物館のうら側を探検しませんか。動画シリーズを公開しました。
●上記で紹介したクジラ化石などを集めた企画展「世界一のセミクジラ化石」展は2025年6月25日(水曜日)~8月30日(土曜日)まで開催予定

●札幌市の博物館計画と、応援について
・田中嘉寛, 2024:札幌市の博物館計画のこれまでとこれから 札幌市産セミクジラ化石にかける期待. 博物館研究. vol 59(10), p. 32-35.
・田中嘉寛, 2025: 1958年の北海道大博覧会(中島公園)にあった古生物展示について. 北海道の文化.
・田中嘉寛, 2025: 北海道大学総合博物館と札幌市博物館活動センターとの「つながり」、そして博物館育て. 北海道大学総合博物館ボランティアニュース. vol 70, p. 3-5.

●博物館の主要機能同士の連携について
・田中嘉寛, 長野あかね, 百々千鶴, 安藤達郎, 2024: 北海道で近年新種になった鯨類化石についてー文化資産をもちいて好循環を生みだすー. 化石研究会会誌. vol, 57, p. 37-43.
・田中嘉寛, 2019: クジラを研究して発信する博物館. 勇魚. vol, 70, p. 13-18.
・田中嘉寛, 新村龍也, 2017: 博物館の研究成果を展示に活かす-ヌマタネズミイルカの場合-. 沼田町化石館年報. vol, 16, p. 25-28.