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書く、書く、文章を書く【コラムリレー07 第24回】

今から12年前。新米学芸員だった私は、先輩学芸員から「毎月ニュースレターを出版しているからコラムを書いてね」と言われました。そして、しばらく経つと「新聞コラムの依頼があるからやってみない?」と・・・。次は、町の広報誌。その次は、行事報告書や研究論文などなど。次から次へと執筆原稿が増えていきます。そして、日々、文章書きに頭を悩ませている状況になりました。

違うーーー! 新米のクセに、仕事に対する不満がこみ上げてきました。就職前に私がもっていた学芸員のイメージは、森や川に出かけ、生き物を採集し、標本をつくってニヤニヤできる仕事だったはずです。それなのに、原稿に向かう時間があまりに多くて、ビックリしました。

ひとつのコラムや論文を仕上げるのに必要な資料(一部)

一般向けに書く

子供のころから読み物といえば、マンガ。活字はそれほど特異な分野ではなく、文学モノなどほとんど読みません。エッセーや冒険記は読みますが、それでも活字に触れると、瞼が重くなります。一方、学術書や図鑑の解説、そして論文などの活字になると目がさえてきて、楽しく読めます。このあたりの活字が好きなのは、私にとって文章表現が回りくどくなく、わかりやすいからだと思います。

では、図鑑の解説文を一例として、ある魚を紹介します。「北海道を代表する純淡水魚の一つ。4対の口髭を有し、河川本流より、周辺湿地の池沼に生息する。」と、こんな感じ。もし、この文章を見た時、私はフムフム、エゾホトケドジョウだね。とわかるわけです。でも、魚のことを知らない人に、この文章はうまく伝わるでしょうか?

まず、問題になるのが「純淡水魚」。淡水魚の「純」って何?となるはずです。実は、淡水魚には、生活スタイルによっていくつかの区分けがあります。例えば、ニホンウナギ。淡水魚ですか?海水魚ですか?多くの方が淡水魚と答えるでしょう。でもよく考えて。ニホンウナギの産卵場所は、マリアナ諸島周辺にあることがわかっています。そこって海ですよね。

このように淡水魚いえども海に暮らすことがあります。だから、淡水魚は、生涯のうちでいつ頃海にいるのかによって、区分けされているのです。この区分けの中に、純淡水魚という言葉があり、一生涯、淡水中で暮らす魚のことを言います。ちなみに、ニホンウナギは降河回遊魚(川を下って海で産卵する魚)と呼ばれています。次に問題になるのが髭の本数。4対というより、8本と言ってもらった方がわかりやすいですよね。

そんな具合で上記の文章を一般向けに直すと、「エゾホトケドジョウは、8本のヒゲを持つドジョウの仲間です。海で暮らすことはできず、一生涯を池や沼などで暮らしています。」と魚の名前も含めて紹介してあげると、わかりやすい文章になります。実は、これが、いつも頭を悩ませるとても難しい作業です。専門用語を使えば、簡単にまとまるのに・・・と。

エゾホトケドジョウ

論文を書く

 自分の知り得た情報は、興味関心の上では、すでに満たされています。それでも、その生き物がいた場所や、暮らしぶりは、多くの人に知ってもらわなければなりません。それを紹介するのが論文です。これを仕上げるのが、また大変なのです。関連する論文や学術書を多く読み、図や表、時には写真の技術も駆使していきます。そして、仕上がったものを学会誌などに投稿します。投稿後は、同分野に詳しい専門家が複数名で、本当に発見したことが正しいことなのか?文章表現や分析方法に誤りがないのか?など細かく審査します。問題個所があれば、修正を繰り返し、論文が完成するのです。

以上のように、学芸員は様々なシーンに合わせて、文章をかき分けます。もちろん、このコラムリレーも、学芸員の大切な仕事の一つなのです。

<美幌博物館 町田善康>