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知る人ぞ知る二枚貝のキャラクターを創作【コラムリレー07 第5回】

イノセラムスといのせらたん写真

画像1.イノセラムス(化石)と いのせらたん ぬいぐるみ。むかわ町穂別博物館常設展示室(2014年)。現在は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、さわれないようになっています(2020年6月)。

 むかわ町穂別(旧 穂別町)は、恐竜時代の主に海の生き物の化石が産出し、1970年代には首長竜の全身骨格化石(愛称 ホベツアラキリュウ)が産出したことで、最近では日本最高とも言われる陸生の恐竜全身骨格化石;カムイサウルス(Kamuysaurus japonicus、通称 むかわ竜)が産出したことで、広く知られるようになったかもしれません。一方で、私が穂別の名を初めて聞いたのは、大学生で研究をはじめたばかりのころに巨大な二枚貝化石;イノセラムス・ホベツエンシスInoceramus hobetsensis)(画像1.下段の化石など)の名を聞いたときでした。イノセラムス・ホベツエンシスは白亜紀チューロニアン期中期(おおよそ9,000万年前)の時代決定ができる化石種(=示準化石)であることと、殻のサイズが最大60 cmにもなる化け物のような二枚貝として研究者の間では広く知られています。ちなみに、白亜紀後期(=最後の恐竜時代)に繁栄したイノセラムス科二枚貝各種も示準化石として扱われ、高校地学の教科書でも紹介されています。

 ホベツアラキリュウ発見後に設立された穂別町立博物館(現 むかわ町穂別博物館)は、主に地元産の恐竜時代の化石を集め展示するとともに、学芸員を配置し、調査・研究に基づく教育・普及活動を進めてきました。主な調査・研究対象としては、地元から産出する脊椎動物化石(骨化石)で、本邦産白亜紀後期のウミガメ(39個体)やモササウルス類(11個体)は、日本一の収蔵数となっています。また、こうした活動の一環で前述のカムイサウルスも収集されました。

 筆者が2009年に赴任した当時の穂別博物館は、地元産の化石と博物館設立後の調査・研究成果が中心的に展示されており、博物館設立以前の調査・研究成果はあまり展示されていませんでした。そのためか、1930年代から知られていた「巨大なるイノセラムス」は展示室に置かれてはいるものの、その化石・古生物(こせいぶつ;かつて存在していた生き物)の説明はほとんどなく、認知度が極めて低いようでした。そこで、イノセラムス類を紹介する企画展を2011年に制作することしました。

 このイノセラムス展準備の際に、イノセラムスの簡単な線画を制作していたのですが、種類の区別に用いられる殻の表面装飾の一部を目や口のように変えてやると、擬人化されたキャラクターに変化することに気が付きました。これだけだと、イノセラムス展のシンボルとなる一キャラに過ぎなかったかもしれませんが、これに加えて、形で種を分けられているイノセラムス各種をキャラとして描き分けて、さらに示準化石として扱われていることを表現するイラストも制作しました(画像2)。このことで、単なる一古生物のキャラを制作したのではなく、イノセラムス各種を区分できる図鑑のようなものになったことと、化石種によって、時代決定をしている(もしくは時代によって化石種が変化してきた)という学術面を表したキャラとストーリーに昇華しました。このような図鑑的・学術的側面を持たせたキャラは、2011年までにはおそらく皆無でした。

いのせらたん

画像2.デザインした いのせらたん。右が示準化石であることを示すイラスト。

 「いのせらたん」と名付けたこのキャラについて、立体的に展示できるように各種のぬいぐるみを窓口の職員らに手伝っていただきながら製作しました(画像1)。展示室のぬいぐるみは好評で、たまに幼児が大型のぬいぐるみを持って帰ろうとまでするほか、ぬいぐるみを販売していないかなどの問い合わせもあります。いのせらたんは、こうした来館者だけでなく一部の大人からも絶大な支持を得ており、今でも常設展示室やホームページ上に残り続けています。

いのせらたんのページ:www.town.mukawa.lg.jp/2881.htm…

〈むかわ町穂別博物館 学芸員 西村智弘〉