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分かりやすく伝えるための試行錯誤【コラムリレー07 第3回】

*はじめに

 博物館の主な役割として「資料の収集・保管・展示」「調査研究」「教育普及活動」の3つが挙げられます。海外の博物館では、たとえば資料の登録・情報管理はレジストラー、教育普及はエデュケーターが担当するというように細かく分業化されているそうですが、国内の博物館でそこまでの分業が進んでいるところは多くはないでしょう。その結果、学芸員が何でもやることになり、自嘲的に「雑芸員」などと言うこともあります(雑芸員という言葉にはさまざまな意見がありますが、ここでは詳しく論じません)。

 私は、以前勤めていた博物館でデザインのプロフェッショナルたちと一緒に仕事をする機会に恵まれました。もともとこのような分野に興味があったこともあり、仕事をしながらいろいろなことを学び、吸収しました。現在は植物担当の学芸員として勤めていますが、このときの経験を活かして、博物館の広報物や館内掲示物などを作成する機会が多くあります。

 今回のコラムでは、いわゆる「博物館的な仕事」のどれにも当てはまらないけれど、どの分野とも関わりがあり、実はとても重要な仕事でもある「広報物・掲示物作成」について、今回のコロナ関連の情報の伝え方を例に紹介します。

*特別な注意事項をどのように伝えるか

 新型コロナウイルスの感染拡大、緊急事態宣言の発出と解除、といった世の中の流れにしたがい、私が勤める釧路市立博物館も4月18日から5月24日まで臨時休館となりました。休館期間中に、再開時に向けた情報の出し方・表現について、他館の事例を参考にしながら検討しました。

 再開館後は来館者へ伝えなければならないことがたくさんあります。マスク等の着用、咳エチケット、手指消毒、ソーシャルディスタンシング、大声での会話の自粛、入館時の受付表の記入、体調が悪い場合の来館自粛などなど。文章を箇条書きにするだけでも掲示したことにはなりますが、見てもらえなければ意味がないので、特に重要な部分はイラストを使って、シンプルに伝えることを重視しました(写真1の左)。幸い、当館にはさまざまな扮装をするキャラクターがいるため、マスクをつけたり、「市女笠でソーシャルディスタンシング」というネットの話題を参考に釧路市の姉妹都市である秋田県湯沢市の「小町まつり」の扮装を使ってみたり、分かりやすく且つ楽しく伝えることを意識しました。

再開館時に作成した掲示物。マスク着用などのお願い文書と、コロナ対策でトイレの照明をつけたままにすること、換気のためにドアを開けていることを示す表示。
写真1
再開館時に作成した掲示物。多言語化しなくても、絵で伝わるように意識しました。
ウェブに掲載した来館案内はこちら。

 これまでに直面したことのない事態なので、「模範解答」はあっても「正解」はないものだと思います。それでも、「四角四面なお役所仕事」「上から指示されている感じ」と思われるよりは「分かりやすくていいね」と思ってもらえる方がいいよね、と思いながら今も試行錯誤しています。自分自身にとっても、「分かりやすく伝える」ことについて改めて考えるきっかけになりました。

記録上最大のイトウの大きさが約2mだったことから作った、ソーシャルディスタンシングを表すポスター。
写真2
開催中の企画展にからめて、WWFの「社会的距離はパンダ1頭分」を参考にしたポスターもどきを作り、SNSにアップしました(残念ながら反応はあまりありませんでした)。

*広報は「学芸員のお仕事」?

 広報は本当に学芸員の仕事なのかどうか。本来の仕事ではないと思う方もいるでしょうし、不本意ながらやらざるを得ないという方もいるでしょう。それでも、「分かってもらえるように伝える」という広報の基本姿勢は、博物館活動全般においても、博物館自体の存在意義を知ってもらうという面においても、必要なことだと思います。

 展示パネルやポスター・チラシの作成など、より学芸員的な「伝える」仕事もあります。どこにどのフォントを使うか、どんな色を使うか、ユニバーサルデザインになっているか……。「見せ方」で気を遣うところは、実はたくさんあります。博物館・美術館の展示や広報物を目にしたとき、少し気をつけて見てみると、各館のさまざまな工夫や苦労が見えてくると思います。

〈釧路市立博物館 学芸員 加藤ゆき恵〉