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ちょっと昔の漁業道具【コラムリレー第39回】

福島町は国内最大規模のするめ生産量を誇る漁業が盛んな町です。町で保管している民具資料をみていると、やはり漁業関連の資料が目を惹きつけます。
資料の整理中、40cm×50cmくらいの大きさで、取っ手が2つ付いた竹の籠をいくつかみつけました。なかには、何かの汚れが染みついていて、使用時の面影がそのまま残っているものもあります。色々な用途に使えそうな籠ですが、使い方がわからず困っていたところ、地域の漁師さんが「これイカ籠って言うんだ。もともとはイワシ入れるのに使ったもんだから、イワシ籠というのが正しいかな」と教えてくれました。

イワシ籠(イカ籠)

○イワシ漁はいつからか
福島町でイワシ漁が本格的に盛んになったのは、大正から昭和にかけてと言われています。大正時代といえば、漁民の生活を支えていた魚粕(ぎょかす)作りがニシンの不漁により大打撃を受けた時代です。町の歴史をみると、大正2年(1913年)の豊漁を最後にニシンの回遊が途絶えてしまったという記録がありました。これ以降は、ニシンの代わりにイワシで魚粕を作り、不足を補っていたようです。

○イワシ籠の使い方
ところで、先ほど紹介したイワシ籠は、魚粕を作るときに活躍します。具体的には、魚粕を作る大釜に生のイワシを移し入れる際に使用したそうです。籠いっぱいのイワシは、重さが約40kgもあります。それを、大人2人がかりで運び、中身を釜に投入していたそうです。イワシの重さに耐えるために、かなりの強度が必要とされていたのでしょうか。実際にイワシ籠をみてみると補強の痕跡が目立つものもあります。

○イワシ籠からイカ籠へ
では、この籠はいつ頃からイカに使われ始めたのでしょうか。おそらく、イワシが不漁になった昭和30年代、使い道のなくなったイワシ籠をそのままイカ運び用に使用したと考えています。
興味深いのは、籠の底に取り付けられた幅の広い竹です。御用籠(ごようかご)と呼ばれる籠に似ています。これは、イカを入れたまま引き摺っても籠が痛まないように、白符(しらふ)という地域に住んでいた人が工夫したものだそうです。用途が変わると共に、ちょっとした改良が加えられています。

左:イワシ籠 右:御用籠

底に幅広の竹が取り付けられています

○おわりに
今回は、地域の漁師さんの話をきっかけに、イワシ籠の使用方法の変化や当時の人々の工夫を知ることが出来ました。丈夫で大容量のイワシ籠は使い勝手がよさそうです。今後、詳しく調べていくと、新たな使用方法などがわかるかもしれません。

昔の道具について地域の方々とお話をすると、どの方も当時の思い出を沢山語ってくださいます。今回も「昔はお金が無かったのでイワシを絞った油でテンプラを作ったものだけど、美味しくなかった」など、ちょっとした体験談をお聞きしました。最近は、ひとつひとつの何気ない会話の中にここでしか聞けない地域の貴重な情報が含まれていることを実感しています。本を読んだだけではわからない、生き生きとした町の歴史を知るチャンスを大切にしていきたいです。

福島町教育委員会 学芸員 鈴木志穂