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自然環境の絶妙なバランス、高山植物・かんらん岩が語るアポイ岳【コラムリレー第20回】

北海道の中央部には、南北150kmにわたり北海道の背骨と呼ばれる日高山脈がそびえたっている。その南端に位置するのが様似町のアポイ岳である(図1)。

図1 約1300万年前の北海道付近のプレート配置図

図1 約1300万年前の北海道付近のプレート配置図、新井田(1999)引用

アポイ岳は日本で一番早く、そして一番長く高山植物の花を楽しめる山で、5月から10月まで半年間も花を楽しむことができる。標高810mの山で、年間8000人程の登山者が訪れる。アポイ岳は、低山にもかかわらず、高山植物がみられる不思議な山である。ヒダカソウ、サマニユキワリ、アポイアズマギクなどのように「アポイ」、「ヒダカ」、「サマニ」とつく植物が多く、その多くはアポイ岳周辺に固有の植物である。

図2 ヒダカソウ(固有種)

写真1 ヒダカソウ

高山植物や固有種が多いのは、アポイ岳をつくるかんらん岩と、この山の厳しい環境とが影響している。かんらん岩を母材とする土壌にはニッケルやマグネシウムなどが多く含まれるため、植物は成長しにくい。またかんらん岩は風化しにくいため土壌ができにくく、アポイ岳の土壌層は薄い。さらにその土壌は、乾燥しやすく、栄養が少ない。冬季の少雪、強風で、むき出しの地面が容易に凍結してしまう。加えて、アポイ岳は海岸からわずか3kmのため、夏によく海霧に覆われ、夏でも日光が遮られ気温が低下してしまう。このように特殊な地質条件と低山でありながら高山のような環境であるため、そこに適応できる高山植物だけが、形を変えながら生きながらえてきた。アポイ岳の生態系が、大地の変動と気象・気候環境の絶妙なバランスの上で保たれていることを感じる。しかしアポイ岳の高山植物は、急激な環境変化により、衰退していることが事実である。夏季の海霧の発生が少なくなっているともといわれており、エゾシカの食害の問題もある。今年度、様似町と研究者と北海道とで協力して、アポイを後世に伝えていく取り組みが始まった。

アポイ登山で花が目当てならば、アポイにしか咲かない花が数多く楽しめる5月~6月がおすすめである。自分の足で歩いてたどり着いた、馬の背(7合目)の太平洋の大パノラマ景色を眺めながらのお昼ごはんは、格別においしいだろう。

図5アポイ眺望

写真2 アポイ岳9合目からの眺望

かんらん岩は、地殻の下、数十~400kmの上部マントルをつくる岩石である。アポイ岳はおもにかんらん岩でできている。なぜ地下深くにあるはずのかんらん岩がアポイ岳では出ているのだろうか。東側の北米プレートが西側のユーラシアプレートに徐々に近づき、4000万年前に衝突・合体し、北海道の土台をつくった。衝突後も北米プレートの一部はその動きを止めずに西に進んだため、北米プレートの先端はユーラシアプレートの上にめくれ上がるように乗り上げ、日高山脈を形成した(1300万年前)。その際、地下50~60kmという深部の上部マントルまでもが地表に顔を出し、現在のアポイ岳になった。

 

ところでアポイ岳登山道を歩くと、2合目と3合目の間でかんらん岩の分布がはじまる。図2でアポイ岳周辺のかんらん岩の分布を紫色で示した。

図3日高山脈プレートB_GP-10

図2 幌満かんらん岩体の分布(シームレス地質図引用)

しかしその場所では、かんらん岩の露頭はなく、見られるのは転石と土壌である。なぜここがかんらん岩のはじまりだとわかるのだろうか。その答えは、別の場所で見たかんらん岩がここにも出るはずだと推測して地質図を描いたからだ。沢を歩き、かんらん岩のはじまりに出会う。かんらん岩には、規則的な割れ方、鉱物の並び方向が見られることがある。この方向をクリノメータ―で測定し、かんらん岩が続く方向を記録する。これを地図上でマッピングしていく。こうしてかんらん岩の分布がマッピングされていく。

図4 コトニ

写真3 アポイ岳から流れるコトニ川にかんらん岩の分布を確認しに行った時の写真。この滝からかんらん岩の分布であった。

参考文献:目代邦康・廣瀬亘(2015)シリーズ大地の公園北海道・東北のジオパーク、古今書院

(アポイ岳ジオパークビジターセンター 学芸員補 加藤聡美)