平取町を貫流する一級河川「沙流川」。そこに合流するカンカン沢の沢口から沙流川の対岸を望むと、細い峰にぽっかりと穴のようなくぼみが見える。その山を「オプシヌプリ」(穴あき山)と言って、古くからの伝説が残されている。
<写真1> カンカン沢から望む「オプシヌプリ」
平成18年、ふるさとに伝わる「伝えたい物語」をデジタル絵本にしてホームページで紹介するという「北海道企画振興部地域再生グループ」の企画に、平取町有志の「伝えたい物語実行委員会」がデジタル絵本「オプシヌプリの伝説」を作成した。
スチレン版画という技法をもちいて、有志一人ひとりが一場面ごと原版をつくり、文章を添えた絵本である。結果は、全道の応募作品の中から「奨励賞」をいただくことができた。
<写真2> スチレン版画での原版づくり
また、このことがきっかけとなり、平成21年には「平取町 町民税1%まちづくり事業」の支援で、この物語を「絵本」という形にすることができた。
<写真3> 絵本「オプシヌプリの伝説」
この「オプシヌプリの伝説」とは、次のような内容である。
カンカン沢の林には、
キツネの親子がすんでいます。
みどり豊かな沢口の向かいの山には
ポッカリ穴が空いています。
「あの穴はなあに?」
子ギツネが山を見ながらたずねました。
「あの山は、オプシヌプリといってね、
今日あたりかしら、
日が沈むころ『すてきな出会い』が見られるのよ。」
母さんギツネはそう言って、
お話を聞かせてくれました。
むかし、日高を流れる沙流川のあたりは、
しぜん豊かで美しい土地でした。
あるとき、天の神々は、
この地にオキクルミカムイを
主としておくりました。
沙流川のアイヌたちは
オキクルミカムイが
天からもってきたひとにぎりのヒエから畑作をおぼえ、
狩のし方や布の織り方などもまなび、
より豊かに、楽しくくらしました。
しかし、静かなくらしばかりではありませんでした。
ときには、アイヌどうし争いもありました。
ある日、山のむこうから
武器をもった人たちが攻めてきました。
オキクルミはおたがいをきずつけあわないために
ちえをはたらかせこう言いました。
「『技くらべ』でしょうぶしよう」
そして、
アイヌの大切なしょくぶつであるヨモギで
矢を作りました。
それから、
川をはさむ二つの小高い岩の上に
両足をのせて、
イチイの弓をかまえ
川の向こうにみえる山めがけて
ヨモギの矢を力強くはなちました。
するとどうでしょう!
ヨモギの矢は山をつきぬけ、
そこには大きなあながあいたではありませんか。
山のむこうの、
その矢が落ちたところには、
一面にヨモギが生えたのでした。
攻めてきたアイヌたちは
オキクルミの弓の技におどろき、
あわてて引きかえしていきました。
「ふーん。あのあなあき山にはそんなお話があったんだね。」
「ほら、ごらん。オプシヌプリがかがやくよ。」
目もくらむようなかがやきで、
太陽が山のくぼみにすっぽりとおさまるように
しずんでいきます。
見つめるあなあき山のむこうで、
まるでオキクルミが笑っているようでした。
子ギツネは
むねがいっぱいになりました。
日がすっかりおちて
オプシヌプリに夜がやってきました。
キツネの親子は
しあわせな気もちでねむりにつきました。
……来年も会えるよね、まっているよ。
おわり
<写真4> 夏至のオプシヌプリ
このオプシヌプリは、明治31年の大水害をもたらした大雨のときに、峰がくずれてしまったそうだが、かつては、今のくぼみの上部がつながっていて、本当に「穴」であったそうだ。
毎年、夏至の前後3日間くらいのは、カンカン沢のあたりから太陽がちょうどオプシヌプリの穴を通って沈んでゆく神秘的な夕暮れをみることができる。
このオプシヌプリ、絵本と共に地域の文化遺産として残したいものだ。
<沙流川歴史館 森岡健治>