日高山脈博物館は,日高山脈のさまざまな岩石を展示しています.数ある岩石の中でも,目立たずひっそり佇む,日高町日高産出の「自然銅」を今回の秘蔵品とします.
日高では鉱業も盛んでした.マンガンや石灰のほか,蛇紋岩の多い日高ならではの石綿や日高ヒスイなど,鉱山は数あれど,最も盛んに採掘されたものは,真っ黒でずっしり重いクロム鉄鉱です.土地(地質)柄,クロム鉄鉱は,河原にも円磨された状態で散乱しています.ちょうどこの秘蔵品と同じ状態です.
秘蔵品は,廃校となった千栄中学校に「クローム鉱」(クロムを含む鉱石の総称であるクロム鉱のこと.クロム鉱のうち,主要で代表的なものがクロム鉄鉱)として収蔵されていたそうです.周辺にはクロム鉄鉱を採掘する鉱山が多く存在しており,採取された方が,辺りに散乱しているクロム鉄鉱の変わりものだと判断されたのかもしれません.ただ,よく見ると表面や断面も,クロム鉄鉱の色や特徴とは異なっています.まさに当館の開館直前に,この秘蔵品を見出した当時の担当の方々は,どういうものであるのか明らかにしようと思われたに違いありません.
この形状・大きさであればまず,熔融して固める等の工程でできた人工物ではないかと疑われます.実際,人工的な熔融を経てできたであろう鉱滓が円磨されたものは,日高管内ではよく見受けられますが、その直後,東北大学(当時)の北風嵐氏により,電子顕微鏡下での鉱物の重なり方や,結晶の形,熔融したものであれば消えてしまう鉱物が存在することから,人工物ではなく自然物,自然銅の塊であると科学的に証明されました.このような形・大きさの自然銅は大変珍しいようです.
銅は,地下深くのマグマから出る熱水や蒸気によって形成される鉱床などでよく産出します.一方,蛇紋岩を伴って産出される場合もあります.日高は蛇紋岩が多く,それに伴ってクロム鉄鉱も産出されていました.両方が産出されるということは,日高の地質はどのようにしてできたのかなど,日高の地域の成り立ちを考える上でも重要な資料となってきます.
生活で利用されている鉱石は,周辺の地質の研究試料としても有用で,その地域での生活と土地柄・地質を結び付けるものとして,かけがえのない価値があるのです.なお,秘蔵品を全て10円玉に加工すると何枚できるのか等,値段について聞かれることが多いですが,謎にしておきます.
<日高山脈博物館 東 豊土>