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楽ちんな植生調査のために【コラムリレー 06 第12回】

 調査の対象や分野にかかわらず、何かを調査して記録を残そうと思ったとき、教科書などの文献、あるいは先輩の教えを学んでそれを実地に移すことから始まります。しかし、「読んだ(聞いた)のにやり方がわからん!」という深刻な悩みにぶつかることもあれば、「あれはこうやった方が効率がいいんじゃないか?」という思いつきが生まれることもあり、試行錯誤して自分なりのやり方を作っていきます。今回紹介する「ピンクテープつき杭4本セット」はそんなあまたある目の前の課題を解決していく中で生まれた小道具の一つです。

植生調査のようすと「調査票」
植生調査のようすと「調査票」

 さて、「植生調査」と聞いてピンとくる方はどれくらいいるでしょうか。ちょっと強引ですが、食べ物に例えて説明しましょう。世の中には食品が多々ありますが、商品となっている個々の食品の外装には成分が記されています。試しに「のど飴」の外装を見てみます。成分表示の欄に「(100g当たり)タンパク質0.4g 脂質3.2g、炭水化物92.0g、食塩相当量0.2g」、名称の欄に「キャンデー」とあります。植生調査はこののど飴の外装表示のように、森や草原の中【=世の中】で対象となる植物集団【=個々の食品】を決めて、出現種数とその量(地面を覆う広さなど)【=成分表示】を調べ、最終的に群落名【=名称】を決める調査です。ただし、商品はのど飴と別の飴、また他メーカーののど飴が混ぜこぜになっていることはありませんが、自然の中では森や草原、別のタイプの森がくっきりわかれているわけではないので、どこからどこまでが一つの群落なのかを調査しながら決める必要があります。

 実際には、調査範囲を決めて中の植物種をリストアップし、それぞれの種が占める広さを調べていきます。高木だと影のようにしか見えない葉などを頼りに「あれはミズナラ、それはヤチダモ・・・」などと区別しながら、ミズナラはあの木(20㎡くらい)とその木(10㎡くらい)とこの木(4㎡くらい)だから合わせて34㎡(調査票に記載する優占度という数値は5段階中の「3」)などと作業を進めていきます。

 区画は四角形である必要はなく、かっちりした数字の面積である必要もありません。ただし植物が占める広さの割合を計算するとき、全体が100㎡ならその1%は1㎡となり、とてもわかりやすくなります。私は上を向きっぱなしで作業していると頭の働きも悪くなるようでなるべく計算を簡単にするため、たいてい10m×10mか20m×20mの区画を設定して作業します。

ピンクテープつき杭
ピンクテープつき杭

 ピンクテープつき杭は調査しながら区画の範囲がパッと見てわかるように四隅の目印として使います。はじめはピンクテープ等で目印をつけていましたが、テープがもったいない、高い木が無い場所でも設置しやすいようにと模索しているうちに、いつしか地面に刺せてピンクテープを自由に周りにからみつけられるこの道具を使うようになっていました。杭の材質も軽いプラスチックにしたので、持ち歩くのも億劫ではありません。

 秘密道具というには派手さがないですが、ドラえもんと別れた後に自分の頭を使って目の前の課題を解決していくのび太くんもこんな風に日々(さぼりながらも)奮闘しているのではないかと思いながら書いてみました。

(終わりに)

 植生調査は「ミズナラの林」「ススキ草原」のような植物の集団(群落といいます)を確定していく作業です。地域の自然を記録・保全していくとき、群落の内容に着目することは重要です。例えば富良野盆地では、開拓以前の原風景であるハンノキなど湿地林はごくわずかしか残っておらず、現存する森を後世に残していくことが重要ですが、その認識や、その認識に科学的な裏付けを与えてくれる調査手法の一つが植生調査なのです。<富良野市博物館 泉 団>