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縄文文化の樹皮利用「巻く技」 −石狩紅葉山49号遺跡出土品から− 【コラムリレー第40回】

石狩紅葉山49号遺跡(以下、49号遺跡)の低湿地部では、縄文文化中期後半頃(約4000年前)の木製品が多数みつかりました。それらの一部には樹皮を利用したものも見られます。ここでは、特に樹皮の紐のような利用方法について紹介します。

写真1は、紐状の樹皮製品です。直線的な紐ではなく環のような形をしており、その両端は繋がっていません。断面は幅7mm程の楕円形をしています。作り方を観察すると、幅7㎜程のテープ状にした樹皮の数枚を重ねて螺旋状に巻いています。重ねた状態で巻くことで、内部が空洞にならず、巻き目のしっかりとした丈夫な仕上がりになっています。これが何に使われていたのか具体的にはわかっていませんが、形状や製作技法から編籠などに付属する把手のような部品であった可能性が考えられます。樹種は同定できていないものの、サクラの表皮を剥いだものを材料にしているのではないかと推測されます。

写真1 螺旋状に巻かれた紐状の樹皮製品(石狩紅葉山49号遺跡)

写真2−1は、漁具のタモです。魚を掬う網を除き、ほぼ完形で出土しました。長さは183.5cmと大きく、ラケットのような形をしています。Y字形をした枝木(樹種:カバノキ科ハンノキ属ヒメヤシャブシ)を用いて、タモ枠の輪の部分は左右に分かれた2本の枝を丸くしならせて作り出しています。輪にした枝先を閉じた部分には、写真2−2のように、ブドウ科の蔓の表皮を密に巻きつけ、しっかりと固定しています。さらに、このタモが出土したときには、結束部以外のタモ枠の部分にも表皮が散在していたことが記録されており、網を付けるために巻かれた可能性があります。

写真2−1 タモの出土状況(石狩紅葉山49号遺跡)

写真2−2 タモ枠の輪を閉じた部分

写真3-1は、河川の魚捕獲用施設に用いられたとみられる柵です。49号遺跡では33点が出土しました。いしかり砂丘の風資料館の常設展では、うち1点が展示されています。大きさは長辺2.86m・短辺1.17m、縦木・横木(モクセイ科トネリコ属)・蔓(ブドウ科)で作られ、縦木と横木の固定にはブドウ科の蔓の表皮を用いて結束しています。結束方法は、写真3-2のように、縦木と横木の合わせ目に「たすきがけ」のように斜め十文字に交差するように巻いています。出土した柵の縦木と横木の結束方法には、このほかにも、斜め片方のみに巻かれた「片たすきがけ」や、斜めに巻かない「角しばり」が確認されています。

写真3−1 柵の出土状況(石狩紅葉山49号遺跡)  ※横方向から撮影(長辺が縦木)

写真3−2 ブドウ科の蔓の表皮を用いた縦木と横木の結束

縄文文化の樹皮利用については、出土例が極めて少なく、残された状態も良好ではないことが多いため、未解明なところが多くあります。今回紹介した資料は、いずれも樹皮を巻いた利用法で、樹皮や蔓の表皮を剥いで、部品の製作や部材の固定など、当時の技術の一端を知らせてくれます。その技法はともすれば見逃してしまいそうですが、観察と検討を重ねることで、数千年前の人々の知恵と工夫にあふれた手仕事の技を解き明かすことができるのです。

 

 (参考文献) 石狩市教育委員会 2005 『石狩紅葉山49号遺跡発掘調査報告書』

〈いしかり砂丘の風資料館 学芸員 荒山千恵〉