Breaking News
Home » 学芸員の研究ノート » サケの産卵環境改善【コラムリレー第41回】

サケの産卵環境改善【コラムリレー第41回】

札幌市内を流れる豊平川は、1980年代にカムバックサーモン運動によってサケの遡上が回復し、現在では毎年1000尾以上のサケが遡上します(写真.1)。近年の調査で、自然産卵由来の野生魚が放流魚よりも多く回帰していることが明らかとなり、今後は、自然産卵で世代交代する野生魚を増やすことを目的に、2014年に札幌ワイルドサーモンプロジェクト(SWSP)が始まりました。

豊平川で自然産卵するサケ

写真.1 豊平川で自然産卵するサケ

野生のサケを増やすため、親魚の遡上数に合わせて放流数を変動させる順応的管理が始まりました。一方で、豊平川は河床低下や樹林化などが進み、自然の力による地形変動だけでは、良好なサケの産卵環境を維持することが困難となっています。そこで、SWSPでは、2015年より人力や機械による河床耕起など、産卵環境の改善に取り組んできました。2017年には、河川管理者、施工業者、研究機関の協力を得て、新しい形の産卵環境改善試験を実施することができ、野生魚を誕生させる成果を得ることができたので、その取り組みを紹介します。

産卵環境改善試験を実施した場所は、豊平川の中でもサケの自然産卵が多く見られる、石狩川との合流点から上流に12.2km付近です。この場所は、1990年代は主流路がありましたが、2000年代には主流路が右岸に寄ったため分流となり、現在は平水時には水の流れない流路跡のみがある場所となっています(図.1)。流路跡の下流には湧水起源のワンドがあり、後期群のサケの産卵場所となっていましたが、近年はワンド内にシルトが堆積し、サケの産卵床数が減少しています。産卵環境改善試験では、流路跡を通水させることでワンド内のシルトを流出させ、サケが川底を掘りやすい環境にすることを目的に、水路を掘削しました。

産卵環境改善区間の推移

図.1 産卵環境改善区間(黄色の円)の推移と2017年に掘削した水路および形成された産卵床数

掘削した水路は、水深が比較的浅く、流れの早い区間となりました。ワンド内は水深が比較的深く、流入口付近に堆積していたシルトは、通水後すぐに流出し、砂利層が露出しました。
水路区間には前期に5か所の産卵床が確認され、ワンド内には前期に6か所、後期に13か所の産卵床が作られました(図.1)。産卵環境改善試験では、後期群の産卵環境を改善することが目的でしたが、前期群にとっても良好な産卵環境が作られ、産卵が確認できました。

12月下旬の河川水温が2.8~3.2℃、水路区間の産卵床水温は4.5~5.5℃、ワンドの産卵床は7.1℃あり、産卵床内は河川水より高いことがわかりました。ワンド内は水路区間より高く、水路掘削後も湧水環境が維持されていることが確認できました。

発眼卵の生存率は、水路区間が95.8~100%、ワンド内では88.5%、対照区の生存率は80.2%であったことから、試験区間の産卵環境は遜色がなかったと評価できました(写真.2)。

発眼卵生存確認

写真.2 産卵床内の発眼卵の生存調査

この試験は、河川工事を受注した道興建設株式会社が地域貢献の一環としてサケの産卵環境改善試験への協力を表明されたことによりスタートしました。寒地土木研究所が試験の効果を研究することとなり、河川管理者との調整を行いました。また、石狩湾漁協にも説明し、理解を得ることができました。さらに、豊平川さけ科学館、北海道区水産研究所、SWSPがサケの産卵床調査や発眼卵生存調査をすることで、成果の検証を担いました(写真.3)。

河川管理者と業者らと現地打合わせ

写真.3 河川管理者、業者、寒地土木研究所など関係者との現地打合わせ

豊平川は出水時の増水や土砂移動が激しいため、この場所が今後何十年にも渡って良好な環境のまま維持されるわけではないだろうと考えています。しかし、一時的にでもサケにとって良好な産卵環境が作られたことは、豊平川生まれの野生魚を増やす上では意義があったと考えています。また、多くの関係者とサケの産卵適地について協議し、試験することができたこともとても意義深いことだと思います。このような事例が増えていくよう、今後も活動を続けていきたいと思っています。

<札幌市豊平川さけ科学館 学芸員 有賀 望>