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資料保存の実務 -虫菌害の対応について-

【コラムリレー08「博物館~資料のウラ側」第26回】

 私が北海道で勤務し始めた頃、北海道は寒いから資料の虫害はほぼないと知人から言われたことがあります。そうかそうかと思いながら、とある場所で試験的に虫トラップを置かせてもらい捕獲害虫を調べてみると、資料付近に設置した1つの虫トラップから500匹以上のイエササラダニが捕まりました(図1 No.34)。建物内や資料の中で繁殖したのでしょう。大量の捕獲数からカビの発生が疑われ、北海道でも条件次第では資料の虫菌害の被害の懸念を実感しました。

図1 虫トラップの試験結果(2月の調査)

 北海道内の建物は冬の寒さ対策のため、本州の建物に比べて気密性や断熱性が高い特徴があります。ただ、近年増えてきた夏の高温湿度の気候には対応しづらく、部屋や中の物にカビや虫が発生しやすくなったりします。こうした状況は博物館も同様で、資料保存の実務として対応に迫られる場合もあります。今回は、国立アイヌ民族博物館(以下、当館)での虫菌害の対応について記したいと思います。

 当館で主に収蔵しているアイヌ民族資料は植物素材で作られた資料も多く、害虫やカビの影響による劣化を受けやすい性質があります。特に受け入れ予定の資料などは、事前のケアや保管場所や箱の工夫が重要です。当館では主に下記の対応を取っています。

<生物処理> 害虫の駆除やカビの殺菌などの生物処理を行います。殺虫方法は、-20℃以下の環境下で5日間以上安置する低温処理、充満した二酸化炭素の中で約2週間安置する二酸化炭素処理を用いています。殺菌方法は薬剤燻蒸を行いますが一部の燻蒸薬剤が製造されなくなったことから、エタノールによる殺菌処置が増えています。資料ではありませんが、部屋でカビが発生した際もこの方法で処置しました。ただ、染色製品や漆製品など損傷につながる資料もあるため、クリーニングと温湿度調整でどこまで対応できるかが今後の課題です。

図2 生物処理の様子(左:低温処理、右:二酸化炭素処理)
図3 エタノールでの部屋の殺菌(天井の処置)

<クリーニング> 刷毛や筆、綿棒などで汚れやほこり、カビの胞子を除去します。HEPAフィルター付きのクリーナーで除去したりもします。

図4 クリーニングの様子

<温湿度調整> 保管場所や保管箱内の温湿度を調整します。当館は主に空調制御で調整していますが、空調が使えない場所では、中性紙やプラスチックなどの箱に資料を納め調湿剤や防虫剤を同封します。湿度の低下や生物被害がより懸念される資料は、加えてビニールで入れ物を包み保護もします。また、サーキュレータなどで空気循環を促しカビが発生しづらくなる対応を行うこともあります。

図5 ビニールで入れ物を包み保護した様子

 以上の対応に加えて日常の監視も重要です。定期的な捕獲害虫の監視、保管場所の温湿度の調査、保管場所周囲の清掃など、資料の状態点検に加えた周辺環境の調査やケアが要点と言えます。

 気候の変化や一部の燻蒸薬剤が製造されなくなったことなど、資料保存をめぐる周囲の状況が変わりつつあります。かつて、奈良の正倉院では曝涼を行うことで、宝物を点検しながらカビや虫などの発生を防いでいました。現在は日に当てたり風にさらしたりはしていませんが、人の目や手で点検し必要な処置を行うことが今も続けられています。監視や点検の重要性がわかる話題です。様々な資料保存の知恵や工夫を知り、状況に応用していく予防的保存法の重要性がより増してくるように思われます。

(国立アイヌ民族博物館 研究員 大江克己)