コラムリレー08「博物館~資料のウラ側」第19回
骨格標本は白く、無骨な様相、だけどどこか美しい。ちょっと不気味ですが、思わず目が離せなくなる…そんな経験ありませんか?そんな骨格標本ができるまでの手順をご説明します。展示ケースに入るまでの標本の裏側をご紹介。
【K①】キツイ:まずは死体集め
骨格標本の作製は大きく4つの工程が必要になります。一つ目は死体の収集。やっぱり死体がないことには標本作成は始まりません。ここが最初のK、キツイ。基本的に死体は向こうからやってくることはありません。いつ、どこにあるかわからない死体を収集するには多くの労力が必要です。死体の情報があればすぐに駆け付けます。それが例え夜の23時、車で片道2時間半であっても、死体があると聞けば向かう。車の乗り入れができない海岸にあると分かれば20㎞でも歩いて取りに行く。そんなに頑張っても損傷が激しく、標本にならない時もあります。到着するまでに野生動物に食べられてしまったり、ゴミとして収集されて、何も収穫がない時も珍しくはありません。肉体的に精神的にもキツイ。

いつでも死体が拾えるようにビニール袋、ガムテープ、油性ペン、解剖セットは旅行中でも手放せない。
1年で4万キロ近くを運転するため、この車は乗れてもあと6年(40万キロまで頑張って)。
【K②】クサイ:除肉作業
次はやっとの思いで手に入った死体の肉をナイフでそぎ落とします。除肉という作業です。二つ目のK、クサイ。臭さといっても多種多様。ミンクの臭腺はプラスチックを溶かしたような頭痛のする臭い。状態の悪いイルカのお腹のガスの臭い。キツネの鼻をツンとする臭い。徐肉の前にはこれを車に乗せて博物館まで運びます。車の中は地獄そのもの。真冬でも窓全開で運転します。獣臭さ、腐敗集、臭腺の匂い、いろんな匂いがします。臓器ごとにも臭いが異なります。肺は洗ってない犬の臭い。腸は言うまでもなくウンコの臭い。心臓からは血なまぐさい臭いが漂います。慣れてくると臭いで種、腐敗の状況、臓器までわかったりします。生ごみの臭いが気にならなくなるぐらいにはクサイ。
【K③】キタナイ:二度目の除肉
次も除肉、二回戦です。ナイフでそぎ落とすには限界があります。骨についた小さな肉や軟骨を除去します。そして3つ目のK、キタナイ。私は肉のついた骨を腐った水に1年漬け込んで溶かします。説明は不要、汚いです。一口飲めば昇天できそうなそんな見た目をしています。もちろん臭いも激臭、腐った水が肌に触れ、服につくと数日は臭います。普通の生活をしていたら一生感じることのない汚れ。潔癖じゃなくても失神するぐらいキタナイ。

【そして完成へ】脱脂と漂白
残る工程は2つ、脱脂と漂白です。ここまでで3Kがそろいました。最後は少し楽な作業です。加熱したり、漂白剤を使ったりして骨の中の脂を抜きます。この時に脂を抜きすぎると骨がスカスカになって耐久力が落ちてしまします。逆に脂が残りすぎるとカビの原因になります。3Kではないですが、なかなか繊細な作業。ここが標本の完成度を決める重要な工程。そして、最後に乾燥させ組み立てれば、皆さんが見ている骨格標本が完成します。
◆それでもやめられない、骨の魅力
ただ、お金のある施設や業者さんは高価な薬品を使い、より早く、より綺麗に仕上げています。資本主義、やるせないです。でも、そんな3Kを遥かに凌駕する死体の魅力、骨の魅力。それに気づいてしまったらもう後戻りはできません。キツい、クサイ、キタナイ死体が輝いて見えます。博物館に行った際はもっともっと標本をいろんな角度から細部まで見てみてください。きっとそこにはあなただけの特別な疑問が待っています。その疑問こそが本物の標本にしかない魅力だと、私は思います。

いいですね。キツネは事故死、タヌキはおそらく餓死です。タヌキの方が白いのはもともと骨に脂が残ってなかったからだと思われます。
曲線が美しい◎
標茶町博物館 学芸員 元永康誠
集まれ!北海道の学芸員 ようこそ北海道の博物館へ