【コラムリレー08「博物館~資料のウラ側」第18回】
はじめに
博物館の展示室であらゆる分野の資料を眺めていると、人文系や自然系問わず、資料のキャプションには必ずといって良いほど資料の「年代」の数字を目にします。岩石や化石などの自然史系資料のキャプションには、「約~億年前」や「約~万年前」といったように、だいたいキャプションのどこかに数字で記載されています(写真1)。人文系資料だと、例外もあると思いますが、時代が比較的新しいため、古文書や記録文書から調べることができるかもしれません。一方、地学資料は約46億年の地球の歴史という長い時間スケールの中で扱うため、岩石や化石に関する年代情報を簡単に調べることは難しいです。では、この具体的な年代の数値はどのようにして分かるのでしょうか?
私はこれまで、北海道の恐竜時代(特に白亜紀)の地質を研究し、岩石に含まれるジルコンという鉱物を用いた年代測定を主な手法の一つとしてきました。今回は、博物館のウラ側で実施している私の研究の一部分と、特に地学資料での事例についてご紹介いたします。
年代測定の種類と、年代測定に使用する鉱物「ジルコン」
岩石や地層の年代を明らかにするためには、岩石に含まれる鉱物などを用いて年代を測定します。年代測定の手法は、用途によって様々ですが、例えば、写真1のナウマンゾウ臼歯化石の年代は、化石に含まれる放射性炭素を用いて年代を測定することで、約4万5,000年前という年代が得られています(添田ほか,2013)。
年代測定の手法の一つとして、ジルコンのウラン(U)–鉛(Pb)年代測定があります。ジルコンは、ウラン元素を多く含み、最初に含まれる鉛元素の存在度が非常に低い鉱物で、あらゆる岩石の中に含まれるとても小さな鉱物です(写真2)。また、熱の影響を受けにくいため、ウラン(U)–鉛(Pb)同位体系を保持しやすい鉱物です。この同位体系を簡単に説明すると、ウラン(U)と鉛(Pb)には、同じ元素番号でも重さ(質量数)が異なるもの(同位体)があり、時間経過とともにウランが鉛に変化していきます。ウランから鉛への変化の過程を最初と最後だけ書くと、238U→206Pb、235U→207Pbの二つの過程があります。これらの過程から、206Pb/238U比、207Pb/235U比というように元素の質量の重さの比(同位体比)をジルコン一粒子ごとに測定し、時間を計算します。

博物館のウラ側で年代を調べる
岩石や化石の年代を調べるためには、まず対象地域の地質や化石の調査を行い、地層の積み重なりや化石がどの位置に含まれているのかを野帳や地図に書き出していきます(写真3)。その後、年代決定に重要な岩石(例えば、凝灰岩や砂岩など)や化石を収集し、採取した岩石は室内で砕き、鉱物のパンニングや重液分離という作業を行い、様々な鉱物の中からジルコンを一粒ずつ選別します。そして、他の研究機関に設置されている特殊な年代測定機器(LA-ICPMS)を用いて、ジルコンに含まれるウランや鉛元素を分析し、得られた元素の同位体比などを計算し、年代を明らかにします。
おわりに
このように岩石に含まれる鉱物の年代測定することで、地層や化石の年代を明らかにすることができます。特に化石に関する年代を知れば、「この化石は、この時期の地層から出てきたのか」と当時の環境がより詳細に分かり、想像が膨らみ、資料にも愛着が沸いてくるかもしれません。ぜひ皆様も、博物館資料のキャプションの年代に注目してみてください!
引用文献 添田ほか,2013,北広島市音江別川流域から産出した象類臼歯化石の14C年代測定結果.北方地域の人と環境の関係史 2010-12年度調査報告.5-10.
〈北海道博物館 学芸員 久保見 幸〉