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復元図の景色や説明は本当に正しい? 植物化石が語る本当の気候

コラムリレー08「博物館〜資料のウラ側」第5回

博物館に行くと、恐竜が歩き回る森のジオラマや復元図を見たことがある人も多いでしょう.そこには「恐竜の時代はソテツなどの植物が多く,気候は温暖でした」のような説明がよく書かれています.しかし,それって本当に正しいのでしょうか? どうやって昔の気候を調べているのでしょう? 今回は,博物館でさらっと紹介されている地質時代(大むかし)の気候を知る方法について考えてみましょう.

●ヤシの木の化石=温暖気候の証拠?
ここで問題です.もし,札幌の近くで5,000万年前のヤシの木の化石が見つかったとしたら,その頃の札幌はどんな気候だったと思いますか?
「ヤシの木があったなら,きっと暖かかったんじゃないか」と思う人が多いでしょう.その推定は本当に正しいでしょうか?

●遠くから流されてきたかもしれない
化石になる前の植物の葉や実は,風や川に流されて遠くに運ばれることがあります.こうした「よそから運ばれてきた化石」を 異地性(いちせい)化石 といいます.海の地層から見つかった恐竜カムイサウルスも沖合まで流されて化石化していますから異地性化石ですね.
ヤシの化石が見つかったとしても,それがその場所で育っていたとは限りません.もしかすると,遠くの暖かい地域から流れてきたものかもしれないからです.そのため,化石が見つかったときには地層の状態や化石がどのように地層中に埋まっているかについてもよく調べる必要があります.

●昔の植物=今の植物と同じ性質?
ヤシの木といえば南国のイメージがありますよね.しかし,昔のヤシの木も暖かい気候が好きだったとは限りません.なぜなら,植物は進化し続けているからです.
5,000万年前の“化石ヤシ”と,現代の“ヤシ”は別の種類の植物です.つまり,「ヤシだから暖かい場所に生えていたはず」とは言い切れないのです.

●昔の気候を知るためのヒント
では,もっと確実に昔の気候を知る方法はないのでしょうか?
実は,広葉樹(こうようじゅ)の葉の化石を調べることで,昔の年平均気温や降水量を計算できるのです.
ここで,もう一つ問題です.
現代の東京と札幌では,どちらの広葉樹の葉にギザギザ(鋸歯・きょし)が多いでしょうか?

図1 全縁葉(サルトリイバラ)と鋸縁葉(ウダイカンバ)

答えは札幌です.寒い地域の葉ほどギザギザが多くなることがわかっています.この法則を使って,葉の化石を調べれば,地質時代の具体的な気温がわかるのです!

図2 全縁葉の化石(幾春別層産)筆者採集
図3 鋸縁葉の化石(十勝幌加層産)筆者採集

さらに,葉の形や大きさを分析すると,湿度や降水量も計算できます.こうした手法を使えば,「1,300万年前の道北は年平均気温8℃くらい,年間降水量1800mmくらいの冷温湿潤な気候だった」と具体的な気候がわかるのです.

表1 葉相観から求めた古気候データ.いずれも筆者が計算した.詳細を知りたい方は成田(2018,2020)などを参照してください

●博物館で化石を見てみよう!
恐竜時代のジオラマや復元図を見るときは,「本当にこの場所の気候はこうだったのかな?」と考えてみるのも面白いですよね.
博物館には,こうした気候の手がかりになる葉の化石も展示されています.筆者が採集した多数の植物化石はひがし大雪自然館や士別市立博物館,北海道大学総合博物館の展示で見ることができます.これまでとは違った目でこうした化石を見てみると,新しい発見があるかもしれません!

図4 ひがし大雪自然館の植物化石展示の様子

●植物の化石を研究することの大切さ
北海道では,道内のほぼ全域から葉や果実,花粉などの植物の化石が見つかっています.しかし,植物化石を専門に研究する人はとても少なく,筆者のような研究者はまるで “絶滅危惧種” のような存在です.しかし,植物化石は過去の気候の代弁者で,温暖化が進行している地球環境の未来を考える上でも重要な情報を与えてくれます.皆さんもこれからは博物館の植物化石に是非注目してみてください.

<北海道博物館 学芸員 成田 敦史>

引用文献

  • 成田敦史,2018.葉化石から推定する古気候—基本原理と教育への応用—.地学教育と科学運動,80,p.37-44
  • 成田敦史,2021.北海道名寄地域産中期中新世植物化石群の古植生と古環境.中央大学博士論文.