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熱く、強く、美しく―植物標本の添付器―【コラムリレー06第16回】

 

「押し花(押し葉)」を作ったことはありますか?夏休みの課題や手芸教室で体験した方も多いと思います。電話帳や新聞紙に挟めて乾燥した植物をテープなどで画用紙に留めたり、アイロンやプレス機の熱で固定できるシートで挟み込んだりして作ったのではないでしょうか。

では、博物館の標本は、どのように「標本」になっていくのでしょうか。 博物館の植物標本は、乾燥した後、管理のためA3サイズの紙(台紙)に貼り付けられます。台紙には、「いつ」「どこで」採集したか、という記録を残すため、「植物の名前・学名」「採集場所」「採集日」「採集者・同定者」などを記録した『ラベル』という小さな紙も一緒に貼り付けられます。 標本は、標本棚に種類ごとに保存されます。必要な時に調査・研究や展示に利用するため「植物が台紙からはがれないように」「植物が壊れないように」貼り付けなければいけません。時には「台紙から植物を外して切片などを採る」ことも必要になります。これらの条件を満たすため「強くて丈夫な紙を使って、ラベルと乾燥した植物を台紙に留めていく」という方法が使われます。厚紙をアラビアゴムでとめる、という方法が昔は使われていましがが、採集・収蔵される何十枚、何百枚という標本を、この方法で留めていくのはとても大変です!  そこで、植物標本庫を持つ多くの研究室や博物館では、植物標本を台紙に貼り付けるために「標本添付器」という「ひみつ道具」が登場します。

植物標本を添付する道具。作業中に「こて」の先を触ると、とても熱い。

この、ロボットの顔のような姿の道具には、スイッチと「こて」のような道具がついています。金属でできた「こて」の先は耳かきの先のような形をしていて、電気を流すとアイロンのようにとても熱くなります。  もう一つ、この道具の相棒に、特殊な「紙テープ」があります。この紙テープは和紙のように強く、裏面に「のり」が塗られています。このテープに「こて」で熱を加えると「のり」が溶けて台紙に貼り付きます(アイロンを使って、ワッペンを布バッグや服に貼っていくのと同じ方法です)。

標本を添付する作業

これで、台紙に植物を固定することができます。油断していると、うっかり「こて」を指に当ててジュッ!と焼けどをすることもしばしばありますが、慣れるときれいな植物標本をつくることができます。  この「秘密道具」を入手するまで、筆者は「細く切った障子紙を、アラビアのりと筆を使って貼る」という方法で植物標本を作っていました。これは、秘密道具を持っていない場合によく使われ、焼けどをする恐れはないのですが、うっかりと「のり」を植物の葉や茎に塗りそうになる、細い障子紙がベタベタといろいろな場所に張り付く……と、悪戦苦闘しながら標本1点を仕上げていました。だから、この「ひみつ道具」の存在はとても大切だと実感しています。

追記・標本をつくる時には「採集する」「乾かす」という過程でも、いろいろな「ひみつ道具」が登場します。興味のある方は、過去のコラムリレーもご覧ください。

                      <みちくさ研究所in苫小牧  代表  小玉 愛子>

大量の標本の整理と添付の作業には長い時間がかかりますが、「そこに生きていた植物と、環境」の記録を「未来に残す標本」「多くの人に伝えるための展示資料」として残していくための大切な作業です。  さまざまな展示やメディアで紹介されるたびに博物館や美術館、そして学芸員の世界は一見華やかに見えますが、その陰では「情報を記録し、次世代に伝え残す」ため、標本添付のような地道な作業がたくさん待っています。その中で、外側から見えない努力を続ける学芸員たちにとって、「ひみつ道具」は大切な相棒でもあるのです。