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美しい魚の標本写真を撮るには…【コラムリレー06第15回】

図鑑。それは生き物のことを知るうえで、私にとってなくてはならない大切な道具です。そんな図鑑をひとたび開けば、美しい写真に目を奪われます。魚類が専門の私は、よく魚類図鑑を眺めます。すると、著者たちがどれほど苦労し、図鑑を作ったのか、すぐにわかります。えっ、どんなところに違いがあるかって? それは、写真です。

魚類図鑑に出てくる写真は、大きく2つにわかれます。ひとつは魚が生きている姿をそのまま伝える生態写真。産卵の瞬間や泳ぐ姿など、魚の生きている様子をとらえた写真のことです。これらの写真を充実させることは、魚の生態を知り、その瞬間をじっと待つ忍耐力が必要で、撮影にどれだけ苦労するのか容易に想像がつくはずです。

もうひとつが、標本写真です。頭を左に、ヒレはピンと広げて、見本市のように並べられた写真のことです。なんだ、こんな写真は魚を採ってきて並べて撮ればいいんでしょう。多くの方がそう思うはずです。しかし、そんな簡単なものではありません。

普段、皆さんが目にするスーパーで売られている鮮魚を思い出してください。キラキラした魚体に、輝く目が食欲をそそります。でも、よく見ると光が反射して、魚の色がちょっと見にくい。そのうえ、ヒレが魚体にくっつき観察しにくい状態です。この状態では、魚の姿形を正確に観察できないため、図鑑に載せる標本写真にはなりません。図鑑に載せるためには、ヒレを広げて、テカリをなくして撮影しなければならないのです。これにはちょっとした工夫と「ひみつ道具」が必要になるわけです。

まず、ヒレを広げます。小さい魚の場合は、特に注意が必要で、普段私は、「発砲スチロール製トレイ(ひみつ道具①)」に水を張り、その中で作業を行います。水を張ったトレイを使うとヒレが広げやすいうえ、ドジョウやナマズが持つヒゲも、ピンと伸びてきます。また、ヒレを広げる時には、「髪の毛よりも細い針(ひみつ道具②)」をヒレに刺して使います(もし、太い針だとヒレに穴があきます)。すべてのヒレが美しく広がったら、トレイの水にホルマリンを少し入れ、広げたヒレを固定します。

これらの工程を経て、準備できた標本をいよいよ撮影します。ここで重要なのは、魚の表面のテカリをなくすこと。それには、「特殊な水槽(ひみつ道具③)」を使います。この水槽は、普通の水槽とは違い、横31㎝×縦22㎝×深さ4.5㎝と、極端に浅くなります。水槽の大きさは撮影する魚によって変わりますが、小型の魚の撮影であればこの大きさで十分です。水槽に水を張り、魚を沈めると、魚体表面のテカリが全くなくなります。よし、これで撮影だ!そう思ったその時、魚が浮き上がってきます。実は、これは魚が持つ、ウキブクロと言う空気が入った器官が影響しています。この器官の空気を抜かない限り、魚は水には沈みません。そこで、魚が浮かないように水槽に沈めるために、「入れ歯安定剤(ひみつ道具④)」を魚体につけ、水槽の底に張り付けます。こうすることで、ヒレが立ち、魚体表面にテカリのない美しい魚の写真が撮影できるのです。

こうして、苦労を重ねて撮影された標本写真が、図鑑に掲載されるわけです。もちろん、博物館の展示や収蔵される魚類標本も、このような方法で写真を撮ります。なぜならば、ホルマリンに浸けてしまった標本は、最終的に色が抜けてしまうので、魚体の色が全く分からなくなるからです。例えば、オショロコマとイワナのように、色が種判別に大切な魚は、なおのこと標本写真が重要になります。ですから手間がかかっても、魚の標本を作るときには、必ず写真を撮るように心がけています。

<美幌博物館 学芸員 町田善康>