博物館では死んでしまった野生動物を解剖して、剥製や骨格標本などの標本を作ることがあります。
私は野外で死んでいる動物を見つけると、ビニール袋に入れて持ち帰り、博物館の冷凍庫にストックしています。びっくりする方もいるかもしれませんが、これも大事な収集活動です。
鳥や哺乳類の標本作製にまず必要な道具は、刃物とピンセットです。
刃物はメスや解剖ばさみを使うこともあれば、大物には解剖刀という包丁サイズのものを使うこともあります。特別な道具がない時はカッターを使ったりもします。
ピンセットは色々な種類があるので、用途にあったものを見つけるようにします。
今回は標本作りをするときに、私の右腕として役立てている、刃物でもピンセットでもないある道具を紹介します。(その他に使う道具も最後にちょっとだけ紹介します)
ばばん!こちらがその道具です!
どうやって使うのかご紹介しましょう。
その1 剥製づくりに -剥皮編-
◯耳かき側 (写真1右手,写真2下)
剥皮(はくひ)という、動物の皮を剥く作業ではこちら側をよく使います。
指では入らない隙間にアクセスしたり、薄い皮をめくったり細かい動きが必要な場面で、適度な薄さと角のない形が大活躍します。
◯ナイフ側 (写真1左手,写真2上)
ナイフのように見えますが、あまり良く切れません。それで良いのです。
特に鳥や小型哺乳類の剥製を作るときは、薄い皮に傷をつけないように皮を剥きます。だいたいはするっと剥けるのですが、少し硬い繊維状の組織がついていることがあります。そんなときに、このナイフの刃を少し当てて引っかくと、良い具合に外すことができます。
(ちょっと脇道にそれますが…)
切るのに使うなら、よく切れる方がいいんじゃ…と思われる人もいるかもしれませんね。
ところが切れ味が良すぎると、「うっかり刃先が当たって、皮に穴を開けてしまった…」なんて悲劇が起きます(上手い人はそんなことはない)。この「へら」ならばそんな悲劇は起きませんし、優しく刃を当てて感触を探ったりするのに使えるところが気に入っています。
ちなみに、軽い力で切れないときや、スパッと切る必要のあるところでは無理して「へら」を使ったりはしません。そういうときはメスに持ち替えます。
その2 剥製づくりに -造形編-
◯耳かき側
剥製は目の周りがきれいに処理できているかどうかで、出来栄えの印象がかなり変わります。
「へら」をつかって目の周りの皮の裏側を整えてやるといい塩梅になります。
その3 骨格標本づくりに
骨格標本を作るときは、骨から腱や筋肉をこそげるのに両面を使います。
本体が一体型になっていて丈夫なので、力をかけても曲がったりしないところがとてもいいです。
以上、便利な「へら」の使い方が少しでも伝わっていたら嬉しいです。標本づくりに使う道具は「へら」以外にも色々とあるので、少しだけ紹介します。
「さて、動物の標本を作ろう!」となったときに、剥製にするか、骨格標本にするかで作業や道具は変わります。
例えば剥製作りなら、皮を丁寧に剥くところから始まり、防腐処理をした後は工作や手芸に近い手順を踏んで完成させます。そのため、理科実験のような道具から針と糸、ペンチや針金、ドライヤーなど色々な道具が活躍します。
骨格標本を作るには、砂に埋めたり薬品に浸したりと色々な方法があります。私はじっくり煮て作ることが多いです。だいたいどの方法でも、最後にきれいに洗って乾燥させて完成させます。こちらは、あまり多くの道具は使いませんが、鍋と歯ブラシと根気が必要です。
<北海道博物館 学芸員 鈴木あすみ>