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動物たちの150年【コラムリレー第30回】

北海道博物館の常設展に7か所ある展示替コーナー。
2018年夏の入替にあたって、「北海道150年」を共通テーマにしようと決まりました。

私の担当は自然史の展示。展示内容の構想はすぐに浮かびました。
さまざまな動物(哺乳類・鳥類)の分布や捕獲数などのデータの、150年分の流れをヴィジュアライズしよう。
それも、ひとつの時間軸の中に並べて表現してみよう。
それだけで、この150年間の、北海道の動物たちの置かれた状況が伝わるのではないか。

最終的に完成したのは、博物館としては「禁じ手」に近い、グラフィックパネルだけの展示でした。
しかしデータは客観的に、そして時に標本より雄弁に語ってくれます。

以下、内容をウェブページ上で再構成してみます。

ヒグマ

かつては家畜や人身に被害ををもたらす「害獣」とされ、盛んに駆除されました。
1966年には、実際の被害の有無にかかわらず冬眠中や冬眠明けのクマを駆除する「春グマ駆除」がはじまります。
被害の減少とともに捕獲数も次第に減り、地域によっては絶滅が心配される状況になりました。
「春グマ駆除」廃止後は数も生息域も回復し、近年は市街地への出現などヒトとの軋轢もふたたび増えてきています。
現在では、絶滅を回避しつつヒトとヒグマが共存することを目指した管理が行われています。

エゾシカ

明治期に大雪と乱獲により激減し、一時は絶滅寸前にまで数を減らしました。その後は保護政策や環境の改変などにより徐々に数が増えていきます。
1990年ごろから東部で爆発的に増え、農林業被害も急増。その後、その傾向は北海道全域に拡がりました。
近年は数を抑えてヒトとの軋轢を減らしつつ、絶滅もさせないことを目標とした管理が進められています。
肉などの有効活用も進み、エゾシカ肉は身近な食材になってきました。

姿を消した者たち

150年の間に絶滅した動物もいます。
エゾオオカミも家畜を襲う「害獣」と見なされ、北海道開拓使はヒグマとともに報奨金をかけて駆除を奨励しました。1900年ごろに毛皮を販売していたのが最後の記録であり、この前後に絶滅したと考えられます。
カワウソは、かつては北海道全域の川で見られましたが毛皮を目的に捕獲され、大正期には既に激減していたとされます。
今知られている確実な記録としては1955年が最後です。

タンチョウ

一方で、辛くも絶滅を免れた動物もいます。
タンチョウは明治初期までは石狩平野にも多数生息していましたが、乱獲で減り、一時期は絶滅したと思われていました。1924年に釧路湿原で十数羽が見つかり、その後、地元の方の保護活動などが実って次第に増えていきます。
現在では1,000羽を超えるまでになりましたが、農作物への食害や給餌への依存、狭い越冬地への集中などの問題が起き、繁殖地の分散が大きな課題です。

アライグマ

北アメリカ原産で、恵庭市で飼われていたものが1979年に逃げたのが北海道での最初の野生化と考えられます。
1990年代から周辺で生息情報と農業被害が増えはじめ、その後急速に分布を拡大。現在では北海道のほぼすべての市町村に拡がりました。
在来の野生動物を食べるなど、生態系への影響も確認されています。

彼らの栄枯盛衰は、いずれもヒトの営みに大きく影響されています。
それは、150年間の、ヒトと動物たちとの関係や、自然に対するヒトの姿勢を映し出しています。

グラフからはもっと多くのことが読み取れるはずです。
ぜひ、クリックして拡大画像を見てみてください。

この先の150年、我々は野生動物とどうつきあっていくべきでしょうか。

(北海道博物館 学芸員 水島未記)

 

【データの出典】
ヒグマ
[生息情報があった区画]
  • 北海道庁が実施した聞き取りおよびアンケート調査により生息情報が得られた地点をまとめた5kmメッシュ図(1978年、1991年については北海道環境科学研究センター 2004. 『野生動物分布等実態調査報告書 (ヒグマ:1999~2003年度)』)を基に作図
[捕獲数(~1938年度)]
  • 北海道立総合研究機構環境科学研究センター間野勉氏まとめ(北海道庁統計書等による)
[捕獲数(1945年度~)]
  • 北海道環境生活部生物多様性保全課(自然環境課)まとめによる統計資料
[捕獲数のうち駆除の割合]
  • 上記統計資料より計算
(協力:北海道立総合研究機構環境科学研究センター 間野勉氏)
エゾシカ
[捕獲数(1873年度~1920年度)]
  • 北海道環境生活部自然保護課 1987. 『野生動物分布等実態調査報告書 エゾシカ生態等調査報告書』.
[捕獲数(1955年度~)/農林業被害額]
  • 北海道環境生活部生物多様性保全課(自然環境課)まとめによる統計資料
(協力:北海道立総合研究機構環境科学研究センター 宇野裕之氏)
エゾオオカミ
[開拓使の報奨金制度による捕獲数/最後の記録に関する情報]
  • 山田伸一 2002. 「オオカミ・ヒグマ・カラス ―明治期北海道における「有害鳥獣獲殺手当」をめぐって―」『北海道開拓記念館』41:67-92.
カワウソ
[最後の記録に関する情報]
  • 竹中健 2003. 「サハリン南部のカワウソ(Lutra lutra)痕跡」『知床博物館研究報告』24:1-8.
タンチョウ
[北海道による調査での確認数]
  • 北海道釧路総合振興局保健環境部環境生活課自然環境係『平成26年度 第2回 タンチョウ越冬分布調査』.(http://www.kushiro.pref.hokkaido.lg.jp/file.jsp?id=797430)ほか
アライグマ
[生息が確認された市町村/駆除捕獲数/農業等被害額]
  • 北海道環境生活部環境局生物多様性保全課 2018. 『アライグマの現状について』.(http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/araiguma/genjyo3010.pdf)