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ピンから面ファスナーへ 【コラムリレー06 第24回】

 特別展示室とはよばれてはいるものの、普段そこはただのロビー。展示のためには職員総出でパーティションを運び、部屋をつくる。そしてケースを置いて、資料を並べ、パネルを切り、ピンを打つ。ピンを打つ。ピンを打つ・・・

 観覧者がひっかかって怪我をしないよう、ピンが出っ張っていることは許されません。また、仕上がりにこだわれば、ピンが見えないように、パネルの脇からいれて、まるでピンで留めていないかのようにします。この場合、パネルの縁を斜めに切り落とすことと合わせ技にされる場合もあります。

 ピンには長いものも短いものもあり、ピンを打つ道具というものもあります。

ピンとピンを打つ道具

 一枚につき4カ所。それほど力が必要なわけではありません。

 しかしですね、このピンを打つのは難しい。軽やかにピンが壁におさまってくれることもごくまれにありますが、簡単にくにっと曲がります。そうなったら、引き抜いてもう一度トライします。さっき曲がった拍子に、ピンをさした場所の穴はひろがり、せっかくきれいにしあがったパネルの美しさが損なわれています。

ピンは曲がる

 木槌、金槌、前述した専用の道具を使っても曲がってやり直し。

 さらに、ピンを打ち終わったあとに、パネルが斜めになっていることに気づく場合もあります。

 博物館では水平をとることにはこだわりがあります。飲食店の壁にかかっている額縁を、こそっとまっすぐにする同業者を見てきました。

 このままでいいんじゃないか。何度、悪魔のささやきをきいたことでしょう。

 しかし、ここで直さないと、展示期間中ずっと気になってしまうから、せまるオープン日を背中にかんじながら、ペンチでピンを引き抜き再び打ち、そして曲がります。(以下繰り返し)

 かなり前になりますが、東京のある博物館にうかがったとき、このパネルはどうして壁についているのかと思いました。ピンが影も形もみえません。両面テープでつけているというふうでもありませんでした。そこで、学芸員さんにそのことをおききすると、面ファスナー(マジックテープ)を使っているとおっしゃる。なんと画期的なことでしょう !!

 自館にもどって試してみました。そうすると、使っているパーティションが幸運にも面ファスナーと相性のよい表面でした。さらに面ファスナーの量も、かなり少なくてもよいことがわかりました。長期使用にも耐えました。100円ショップでのりつきの面ファスナーを買ってきて、はさみで切って剥離紙をはがし、パネルの四隅にはればできあがり。

 準備時間が大幅に短縮されただけではなく、展示に必要なシミュレーションがたやすくなったことも効果としてあげられます。机上で計画していても、いざ実際にはってみると、順番を入れ替えたほうがよいという場合もあるし、照明の具合の関係で移動させようということもあります。それがぱぱっとはがしてやり直せるのです。閉会後の後片付けもさっと終わります。

 パネルの高さをそろえるために、水準器をつかったり、水糸を貼ったりしていましたが、最近ではレーザー墨出し器を使いこちらも大変具合がよいです。

 ピン時代に比べると、革命とよんでよいほどに、当館では効率化が図られました。

 ただ問題は、面ファスナーというのは、二種類で一組。一方だけが、大量に残ることになりました。捨てずにとってありますが、何か有効な使い道はないものかと思っています。

北海道立北方民族博物館 笹倉いる美