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馬産地日高誕生の理由を描く【コラムリレー第17回】

当国ハ高原丘陵ニ富ミ且積雪少ナク冬期馬牛ヲ放牧スルモ斃死スル憂ナキヲ以テ頗ル牧畜ニ適スルハ夙ニ世人ノ認ムル所ナリ(中略)御料牧場、陸軍牧場用予定地、岩根牧場、赤心社牧場其数多ノ牧場此地ニ在リ(後略)」(『北海道殖民状況報文 日高国』北海道庁殖民部拓殖課、1899年)

なぜ、北海道日高地方(以下、「日高」と記します。)は、国内屈指の馬産地なのか。その理由を説く冒頭の一文を読み上げ、話し言葉に換えて、「これが馬産地日高誕生の理由です。」で終わってしまっては芸が無い。だから、私は、馬産地日高誕生の理由を史料により語るだけではなく、史料が語る事柄を描いて、一目瞭然としようと思ったのです。

 

図1 地形

図1は、北海道の地形分類図に、平成合併前の日高の行政界を重ね合わせたものです。日高は、山地と丘陵地(台地段丘他を含む)に占められており、「高原丘陵ニ富」んでいます。

 

図2 年最深積雪

図2は、北海道の年最深積雪に、平成合併前の日高の行政界を重ね合わせたものです。日高は、年最深積雪1m未満の「積雪少」ない地域です。

 

図3 ミヤコザサの生育地

ところで、「冬期馬牛ヲ放牧スルモ斃死スル憂ナキ」とは、「笹ヲ食ヘハ冬間モ馬カ生活シテ居ル」(『新冠御料牧場第三期報告』新冠御料牧場、1906年)からです。なお、馬が食む「」は、ミヤコザサです。図3は、平成合併前の行政界で表したミヤコザサの生育地に、平成合併前の日高の行政界を重ね合わせたものです。日高では、「笹ヲ食ヘハ冬間モ馬カ生活」できます。

 

図4 馬産地日高誕生の背景

図4は、図1、2、3の重ね合わせによる、「高原丘陵ニ富ミ且積雪少ナク冬期馬牛ヲ放牧スルモ斃死スル憂ナキ」馬産地に相応しい市町村の位置図に、明治時代から昭和時代(戦前期)の間、日本産馬改良の拠点であった「御料牧場、陸軍牧場用予定地」など、馬に関する主要な施設の位置を重ね合わせたものです。丘陵地(台地段丘他を含む)をなし、積雪少なく、ミヤコザサが繁茂する、そのような無給餌周年放牧できる土地に、御料馬と軍馬を生産した宮内省牧場(新冠御料牧場、1883~1947)他、日本産馬改良の拠点が置かれたのです。

 

図5 「新冠御料牧場全図」の3D表現

さて、私は、馬産地日高誕生の理由を描いて一目瞭然とする試みから、馬産地になるための環境と諸条件が視覚的に理解できる、紙芝居のような教材を作りたいと思うようになりました。更に、関係資・史料を「見える化」しようと、図5のような3D表現に手を付け始めたところです。

<新ひだか町博物館 学芸員 斉藤 大朋>