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守り続けること【コラムリレー07 第33回】

博物館では、歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する多くの資料が収集され、保管・展示がされています。

 これらは、地域住民の方から寄贈されたものや学芸員自ら採取したものなど様々なものがありますが、これら全てに共通して言えることは「その地域の歴史・自然を語る上で重要なものである」ということです。

 だから、私たちは、その地域の歴史・自然を語る上で重要なものであるこれらを収集し、保管し、展示して、その歴史や自然を伝えることが仕事です。

 そして、同時にこれらを残し次世代に引き継ぐ必要があります。

 けど、これは案外難しいことなのです。なぜなら、物は少しずつ、ただ確実に朽ちていこうとするからです。

 壊される心配のない場所にあるだけで、博物館に収蔵しただけで物の劣化が止まるわけではないのです。

 そこをしっかりと管理し、少しでも劣化しないよう受け入れた時の資料の状態を維持していくことが博物館施設にとっての「保管」であり、ただ単に置いておくだけの「保管」とは全く別なものなのです。

例えば、下にある写真はかなり昔に当館前に移設された石碑ですが、潮風が強く当たる野外に置いてしまっているので、塩害や凍結などにより年々石の表面が風化し、文字が読み取れなくなってしまっています。

 これでは、せっかくの町の歴史を語る貴重な資料をしっかり保管しているとは言えません、、、。本来であれば、このような資料は室内で保管することがベストですが、資料の重さやスペースの関係でそのままになっています。反省です。

            博物館前に移設された石碑。塩害で文字が読み取れなくなっています。

  このようなことが他の資料におきないように、施設内でも資料が劣化を防ぐために色々な対策をしています。

 まずは、紫外線対策です。当館では、展示室やホールで使用している蛍光灯は全て博物館・美術館用の紫外線吸収膜付きの物を使用しています。施設によっては、LEDを使用しているところも多くあると思います。

 また、博物館や美術館に行くと暗くて物が見えにくいと思ったことがある人も多いと思いますが、これも資料の劣化を防ぐために照度を落としているからです。

 次に温湿度の管理です。施設では、年間を通して一定の温湿度を保つために展示室ごとに温湿度計を設置して、その動きを毎日確認しています。

 当館では、1日2回定時に目視での温湿度(展示室内の見回り)の記録を行なっています。また、機械に保存しているデータも定期的にパソコンに取り入れて、月ごとのデータとして管理しています。 

     手前に置いてあるのが温湿度計です

 下の図は、クリモグラフと言って、縦軸に月平均の温度、横軸に月平均の湿度の値をとったものです。青色の線が気象庁が公表している外気温のデータです。

 斜めに入る緑色の線は、カビが生えやすい温湿度をを示したもので、これより上に位置する時はカビが発生しやすい環境であるということです。

 当町でいうと、6月から9月ごろがカビが発生しやすい時期となります。

 グラフの左側にあるグレー、赤、黄色のグラフが当館の展示室の値になります。どうにかカビが発生しやすいゾーンには入っていませんが、月による湿度のバラツキが大きく、特に冬は乾燥が激しくなってしまっているという状況です。

   クリモグラフ

 また、機械では問題がなくても空調や施設のトラブルなどで局所的に湿度が高くなる可能性もあり、定期的な施設の見回り、清掃なども欠かせません。

 他にも、資料が酸化しないように中性の箱に資料を入れたりと注意すべき点は沢山あります。

 このように、一概に保管といっても、ただ置いておくだけではないことがわかっていただけたでしょうか?

 博物館資料といった文化財の保管、保存の維持管理とは、決してそのままの状態を守り自然と劣化・風化するのを見守るのではなく、資料を受け入れた時や指定したその時の姿をずっと残すための管理を続けるというであり、学芸員はそのために日々施設を守っていることを知っていただけたら幸いです。

<様似郷土館  学芸員 髙橋 美鈴>