私の“ひみつ道具”はズバリ、「野帳」です。野帳は野外調査の際に欠かせない道具で、調査で得られるさまざまな情報をその場で記録するためのメモ帳です。考古学を専門としている私は、遺跡の発掘調査など野外で調査を行うことが多く、その時には野帳を必ず胸ポケットに入れています。
野帳にもいろいろありますが私が愛用するのはコクヨ製で、正式な商品名は「測量野帳」。その名の通り、測量業務で使用するために開発されたものです。車で移動中、道路横で作業着姿の人が三脚に乗せた黄色や灰色の器械をのぞいている姿を見たことがありませんか。あれが測量です。測量は基本的に野外の作業であり、機械で読み取る様々な情報を記録するために野帳は使用されます。 今回のコラムを書くにあたってコクヨのホームページを見てみました。すると、「測量野帳は発売から50年以上が経過しました。しかし、品質改善のための仕様変更があった以外はほとんどデザインが変わらない珍しい商品です。」と記載されていました。野帳は測量の現場で働く人達から圧倒的に支持されている、ロングセラー商品のようです。 野帳は用途に応じて「LEVEL BOOK(レベルブック)」、「TRANSIT BOOK(トランシットブック)」、「SKETCH BOOK(スケッチブック)」の3種類が発売されています。「LEVEL」と「TRANSIT」は測量方法の名前で、中紙はそれぞれの測量方法に適した罫線がひかれています。では「SKETCH BOOK(スケッチブック)」はというと、3mmの方眼罫線がひかれています。私はこの方眼罫線がお気に入りで、野外調査で野帳を愛用するようになりました。
私が感じる野帳の良さをまとめると、4つあります。それは、①方眼罫線がある、②コンパクト、③丈夫、④安い、ことです。 【方眼罫線がある!】野帳には調査で確認されたことや思いついたことなど様々な情報が残されますが、重要なことは残された記録が後でわかりやすいものであることです。方眼罫線がある野帳は、文字がまっすぐかつ統一された大きさで書き込めることはもちろん、整った図形も非常に書きやすいのです。発掘調査では、調査場所の範囲や出土した土器の位置や、土の堆積状況などをその場でメモすることがありますが、方眼があることでそれらをスッキリと記録することが出来ます。 【コンパクト!丈夫!】コンパクトで丈夫であることは野外での作業で重要なことです。野帳のサイズは縦16.5㎝、横9.5㎝、厚さ0.6㎝で、胸ポケットにかさばらずに携帯でき、使うときもすぐに取り出すことができます。また、発掘調査では突然雨が降ることや、手が土で汚れた状態になることが多いため、水や土ぼこりに強い厚みのある表紙は大変助かります。最近は中紙に樹脂ベースの合成紙を使用した、より水や汚れに強い野帳も販売されています。 【安い!】そして、最後に安さ。野帳は一冊168円で購入できます(令和元年7月現在)。野外調査に行く機会の多い研究者のお財布にも優しいのです。
コクヨのホームページでは、測量関係者以外の様々な方が野帳の使用例を思い入れとともに紹介しています。それを見ると、野帳は多くの人に愛されているなぁと感じることができ、私も負けられないなと思いました。“ひみつ道具”という割にはポピュラーな道具を紹介してしまいましたが、野帳は使う人によって十人十色の可能性が広がっています。皆さんも一度使ってみてはいかがでしょうか。
<湧別町教育委員会ふるさと館JRY・郷土館 学芸員 林勇介>