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出土品の整理作業と実測用具【コラムリレー06 第8回】

 遺跡の見学会や発掘体験会を企画すると、いつも多くの参加希望者に恵まれます。野外調査が陽の当たる明るい世界なのとは対照的に、その後の室内整理はどちらかというと地味な日陰の世界という印象でしょうか。今回は整理作業のおおまかな流れを追いながら、その魅力と実測用具をご紹介します。

 整理作業の第一段階は、資料一点一点を丁寧に水洗いし、乾燥させた後、注記を行うという基礎的な作業です。注記とは遺跡名や出土位置の座標値等が記号化されたコードを資料に記すもので、その後資料を幅広く活用するための大事な作業です。当然のことながら、出土点数が多いほど時間がかかります。

 次の第二段階は分類と復元の作業で、下の写真は今金(いまかね)町ピリカ遺跡出土品の作業風景です。

今金町文化財整理室での作業風景(2001年撮影)※右端が筆者

 ピリカ遺跡は北海道南西部に位置する旧石器時代の遺跡で、石器(石でできた道具)が大量に出土することで知られます。この写真の調査年では約3万点が出土しました。なるべく広い空間に石器を並べ、石材別・色調別に分類し、それぞれ接合・復元を試みます。
 私にとってはこの場面が、長くて地味な第一段階の作業を乗り越えようやく到来した、春のような楽しい時間です。バラバラで出土した資料を自らの手で元の状態に戻す瞬間というのは、いろいろな意味で感慨深いものがあります。出土状況の記憶が新しいこともあり、復元した資料を介して、作り手の技量や意志を感じられるだけでなく、製作途上での感情の変化にも接することができます。これは整理に携わる者でなければ味わえない大きな魅力だと思います。

 作業が進み、遺跡の全容が把握されてくると、次は特徴的な個々の資料について、共通の製図ルールに従って図化します。これを実測と言い、整理作業の最終コーナー(第三段階)と言えるでしょう。ここでは実測法の詳細には触れませんが、筆者が使う実測用具のセットを例としてご紹介します。

石器実測に使う用具(2001年撮影)

 これらは今回のテーマの「ひみつ道具」というほどのものではありませんが、0.1ミリ単位まで計測するため、用具自体が変形しにくい金属製のものが多く選ばれます。以下、少し専門的となりますが、代表的なものを紹介します。
 ①ノギス:石器の厚さを測る
 ②プロトラクター:剥離角の角度を測る
 ③ディバイダー:石器表面の2点間の距離を測る
 そのほか、細かい線を描くための製図用の芯とホルダー(④)、先をとがらせる芯研器(⑤)は必須です。
 この中で私のこだわりを挙げるとすれば③のディバイダーです。製図用コンパスとも呼ばれ、立体的な資料を二次元の図に落とすのに使います。石器と図面との間をディバイダーが頻繁に往復しますので、頑丈なものが良く、中ほどに歯車のある中車式のタイプがちょっとしたこだわりです。特にこの現場のように図化する資料が極めて多い状況では、少しでも作業効率を上げたいので、丈夫で安定性のあるものが使いやすいです。

 その後、実測図は担当者の所見を添えて報告書に掲載され、広く一般に公開されます。報告書の掲載図が、研究者間での議論や博物館同士での資料貸借などの基礎資料となりますので、実測図の作成は、一点しか存在しない実物資料を誰でもアクセス可能な共有財産にする意義があります。自分が携わった図が学会誌等で引用されると、何だか身内が褒められたような気分になるものです。
 このように、一つの遺跡を発掘すると、整理にはその何倍もの時間がかかること、そして適切な整理作業を経て出土品が活用されていることを知ってもらえると嬉しいです。
(ピリカ旧石器文化館学芸員 宮本雅通)