今回のひみつ道具は身近な段ボール。大きさのそろった段ボール板は植物標本を作る際に標本を管理する際にも、とても重要な役割を果たします。
段ボール板はいくらあっても困ることはないので、新聞紙の4分の1くらい(標本サイズ)の折れ目のない段ボール板を確保すべく、大きい段ボール箱が発生するのを虎視眈々と狙っています。予算があれば同じサイズの段ボール板を業者に注文できるのですが、予算は限られているため、使えるものは有効活用します。事務用品をまとめて買ったあと、収蔵庫用の除湿機を買ったあとなどは、すぐに「その段ボール、使います!」と宣言します。
標本サイズの段ボール板は、植物標本にまつわるさまざまな場面で活躍します。
・標本作成と段ボール板
植物標本を作る際には、新聞紙に採集した植物をはさんで、重しをして押し葉[腊葉(さくよう)標本]にします。植物をはさんだ新聞紙(標本紙といいます)の間に吸水用の新聞紙をはさみ、何度も取り替えて植物体を乾燥させますが、何枚も標本を重ねる際に、丈夫な木の枝などが上下の標本の形に影響を与えないように、段ボール板をクッションにします。
ふとん乾燥機などで温風を送って乾燥させる場合は、標本紙と標本紙の間に段ボール板をはさみ、段ボールの「目」に温風が通るようにすることで、効率的に乾燥させられます。ここで重要なのは、段ボールの「向き」と「折れ目がないこと」。向きをそろえることで温風が一方向に通りやすくします。また、折れ目があると空気の流れが遮断されてしまうため、まっすぐの板であることが重要なのです。
・標本管理と段ボール板
乾燥を終えた標本は、同定(名前を調べる)してラベルを作成し、標本台紙に貼るまでは新聞紙(標本紙)にはさんだまま保管します。乾燥した植物標本はこわれやすいため、段ボール板に載せて移動させます。植物標本は平らな状態で移動させ、タテにすることは厳禁です。また、ケント紙など厚手の台紙に標本を貼り付けたあとも、紙がべろんと折れ曲がってしまう可能性があるため、やはり段ボール板に載せて運びます。標本の折れ曲りを防ぐために、ここでもやはり折れ目のない板であることが重要です。
・標本輸送と段ボール板
資料借用や寄贈などでほかの博物館と標本のやりとりをする際にも段ボール板が活躍します。箱に入れるほどの量でもない、数枚の植物標本を貸し出す場合には、標本を段ボール板にはさんでしっかり固定し、チャック付き袋や「プチプチ」で梱包して、宅配便で送ったり手持ちで運んだりします。
大きい段ボール箱がある程度たまると、邪魔にならないうちに解体作業に取りかかります。かつては目分量で大きさを決めて適当に切っていましたが、大きすぎると使いにくいため、最近は定規を使ってきちんと切っています。まれに、事務用品の箱などかわいい絵が印刷された段ボールが手に入ることがあると、たくさんの板を得ることよりもかわいさを活かした形で切ることの方に本末転倒な熱意を注いでしまいます。このような段ボールは、普通の標本乾燥に使うのはもったいないので、標本の貸し借りなどの際の「見せ」段ボール板として使います(個人の意見です)。
段ボールを切るのは刃物を使うこともあり意外に重労働なのですが、最後に積み上がった段ボール板の山を見ると「頑張って良かった…!」という達成感を得られます。大量の段ボールを切り終えひと息ついて、半端に残った部分を資源ゴミ置き場に持って行くと、そこには未解体の大判ハレパネの空き箱が…。更なる解体作業にいそしむか、今日はもういいや、と思うか。段ボールをめぐる攻防は続きます。
(釧路市立博物館学芸員 加藤ゆき恵)