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鉄道の「ひみつ道具」を学芸員の「ひみつ道具」で後世に伝える【コラムリレー06 第1回】

 このたびは「集まれ!北海道の学芸員」HPをご覧いただきありがとうございます。 北海道博物館協会 学芸職員部会、部会長の佐藤です。  
 2013年から始まったコラムリレーですが、学芸員の行っている学芸活動や研究内容の一端を紹介するために企画、リレー形式でコラム投稿を行っています。内容も各分野の学芸員の個性があふれる文章に好評をいただき、おかげさまで第5シリーズまで続きました。
 新たに年度も替わりこのたび第6シリーズを開始します。今回のテーマは「学芸員のひみつ道具」学芸員が調査や整理など業務で使う道具を通して博物館の仕事、学芸員の仕事を多くの人に広く知ってもらえれば幸いです。

右から「点検ハンマー」「あたためき用ボックススパナ」「にないバネ調整スパナ」「メガネスパナ」が並びます。

 さて今回紹介する道具は「写真の工具類です!」と言いたいところですがこれらの道具は鉄道の人が使用していた「ひみつ道具」です。右から「点検ハンマー」「温メ器用ボックススパナ」「担(にない)バネ調整スパナ」「メガネスパナ」と資料名が台帳に記載されています。最初は資料名を見ただけではどのように使われていたものか全く分かりませんでした。そのため小樽築港機関区のOBに名称確認や用途を教えてもらいましたが、蒸気機関車の構造が分からないと理解できないため、聞き取りに苦労した想い出の資料です。

ちなみにこの「点検ハンマー」は機関車用ではなく保線用で線路の点検などに使用します。毎回腰を屈めていては大変なので柄を長くしています。次の「温メ器」とは蒸気機関車についている「給水温め器(給水加熱装置)」という装置のことです。高温のボイラーに冷たい水を送るとボイラーが温度差で傷んでしまうためこの装置で機関車の排気蒸気の余熱を利用して温水を作ります。「担バネ」とは車両の衝撃を緩和するため台わくと車輪の間にあるバネ装置のことです。これらの工具は各部分に対応している専用のスパナなのです。機関区では蒸気機関車の整備がスムーズに行われるように、またケガや事故が発生した時に同じ事が起きないように改良・工夫をし工具や治具の製作をすることもあったそうです。

 話を戻しますが、私の「ひみつ道具」は点検スパナの右にある画筆です。私が小樽に来て最初の仕事が蒸気機関車資料館を開設するために展示をする部品・工具類のクリーニング、防錆処理、注記、資料カードの作成でした。そのとき注記用にと先輩学芸員から渡されたのがこの画筆です。毛先を独自にカットし元の形や毛の種類、何用の物なのかは分からないのですが形状などから面相筆と思われます。
 この「注記」とは、例えば考古資料で遺物にアルファベットや数字などが書かれているのが見えることがあります。このアルファベットや数字を遺物に書くことを注記といいます。書かれている情報はいつどこで出土されたのかが分かる大切な記録なのです。考古以外の資料では登録番号などを書きます。

 この画筆は書きやすく小さい読みやすい文字も書けます。部品工具類は金属のため白のポスターカラーで注記、文字が乾いてからニスでコーティングをします。最初は上手く書けず何度もやり直しをしましたが何度も書いているうちにコツをつかみ、どこに書いているかわからないほど小さく書けるようになりました。筆を交換しようと思い新しい筆で毛先を調整してみましたが同じようにならず、結局そのまま使い続けて27年が経ってしまいました。
 最近は小さい文字が見えにくくなってきているので大きく書いていますが、当時は展示した時に目立たないように小さく、また擦れて数字が取れてしまうことも想定して2カ所に注記をしました。注記した登録番号は見学者にはほとんど見えませんが、資料の歴史を残す記録が見えるのです。

蒸気機関車資料館の様子です。ここには注記済みの部品や工具・ゲージ類が約800点が展示されています。
蒸気機関車資料館には注記済みの部品や工具・ゲージ類が壁面いっぱいに展示されています

(小樽市総合博物館 佐藤卓司)