Breaking News
Home » 秘蔵品のモノ語り » 最北のルリガイ【コラムリレー第11回】

最北のルリガイ【コラムリレー第11回】

janthinaprolongata20071018s青い動物、思い浮かびますか?

カワセミ、アオウミウシ…。それほど多くないですね。全身青色となると、モルフォチョウのほかは、未来から来たネコ型ロボットや、3D映画の太陽系外衛星の原住民くらいでしょうか。ここにあるのはそんな青い動物のひとつ、瑠璃色(青紫色)をした巻貝です。その名も、ルリガイ。violet shell。

当館秘蔵のこのルリガイは、殻高38.4ミリ、殻幅37.7ミリ。2007年秋、石狩浜で採集されたもの。一般のビーチコーマー(漂着物採集家)から寄贈していただきました。これが実は、“最北のルリガイ”なのです。

ルリガイの色は青紫色と一口に言っても、部分によって色の濃さが違います。渦巻きの見える殻の上面は白っぽく、口のある下のほうはまさに濃い瑠璃色。また、手に取ってみるとその軽さに驚きます。殻がとても薄いのです。掴むときはよっぽど気をつけないと「ペキッ」といきそうです。こんな貝が海底を這っていたら、色は目立つし、殻はペラペラで守りの役目を果たしそうにない。あっという間に敵に襲われてしまいそうですが、いいんでしょうか?

いいんです。なぜなら彼らは、貝のくせに海底にいないから。

ルリガイは、海面に浮かび、漂流生活をしているのです。粘液を出して作った泡が浮き袋代わり。だから殻が重かったら困るのです。また、浮き袋は殻の口から出しているため、浮く姿勢は上下が逆さまに。すると、殻口の側の濃い青紫色が海面に出るので、空の鳥から見下ろすと海の青色に溶け込みます。反対に白っぽい面が海中を向くので、魚から見上げると海面の光に紛れてしまいます。ひっくり返って浮かぶことを前提とした保護色が、この瑠璃色だったのです。

ルリガイが分布するのは、全世界の熱帯〜温帯の暖かい海。同じように海面を漂っている青いクラゲ、ギンカクラゲをエサにします。西日本の海岸では、強い海風が吹いてギンカクラゲが大量に漂着したとき、その中にルリガイも混じっていることが多いようです。

暖流系種のため、ルリガイは北海道ではほとんど見つかることはありません。海水温の高い年に道南地方で何件かの記録があるだけで、それより北では、2007年に石狩湾で見つかったこの1個体のみ。海水温の変化の証人、最北のルリガイ。瑠璃色が退色しやすいため展示にもなかなか出せない、当館の秘蔵品です。

<いしかり砂丘の風資料館 学芸員 志賀健司>