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海辺にすむカメムシの謎【コラムリレー第22回】

昆虫は地球上で最も繁栄している生物の一つだと考えられていますが、海洋の環境には極端に種類数が少ないことが知られています。しかし海と陸との境界に広がる海岸には、その厳しい環境に適応した特殊な昆虫が生息しています。

ウミミズカメムシはその名のとおり、海岸にすむカメムシの一種です。体長は4ミリメートルほどで、はねの無い目立たない姿をしています。カメムシ類には海岸に生息する種がかなり知られていますが、その中でも最も海に近い、波しぶきがかかり、時に海面下に沈むような場所で見られる種類です。

ウミミズカメムシ

 ウミミズカメムシ

ウミミズカメムシは1929年に和歌山県で発見されて以来、北海道から沖縄までの十数ヶ所から見つかっていますが、道内で発見されたのはつい最近のことです。最初に発見されたのは小樽市総合博物館のすぐ近くにある豊井浜という海岸です。豊井浜はかつて海水浴場として親しまれた場所で、まちのすぐ近くですが、良好な磯の環境が残されています。

ウミミズカメムシは自然がよく残された海岸でしか見つかっておらず、海岸環境の豊かさを測る「指標種」であると考えられています。一方で具体的な生息条件については未だに不明な点が多く、海蝕洞窟に多いとされたり、淡水が流入するような場所に多いと言われますが、テトラポッドのような人工物の上に現れる場合もあり、その生態は謎に包まれています。

2003.4.16

ウミミズカメムシの生息する小樽市豊井浜の海岸

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ウミミズカメムシの生息地

小樽での発見以来、小樽近郊の海岸を調べ歩いていますが、今のところ豊井浜でしかウミミズカメムシは確認できていません。海岸の昆虫はあまり調査が行われていないので、調べればたくさんの生息地が見つかると考えていましたが、予想を裏切られる結果でした。見た目上、豊井浜と似た環境は北海道の海岸に珍しくないのですが、ウミミズカメムシの生息には何か決め手となる条件が必要なのだと思われます。

その後函館市でもウミミズカメムシの生息が報告されています。分布自体は広いようなので、全道各地で発見される可能性は高いでしょう。海岸の環境が急速に失われている昨今、その現状を知る上でも、この小さな昆虫の生態や分布は興味深い研究テーマだと思います。

<小樽市総合博物館 山本亜生>